「みせるのヒント」
フライヤーから見るデザインヒント
非公開
日原研究室
2021 年度卒業
特定の人をターゲットに特定の場所に置かれる広告、フライヤー。広告の中でも独特な特徴を持つフライヤーに重要視されるのはそのデザイン性であるが、一方でその制作についての関連書籍はあまり見かけない。そこで本研究ではフライヤー制作に着目し、デザインに携わる人間の思考から、制作においてヒントを得られるようなガイドラインを導き出した。

はじめに

1.紙媒体の広告の歴史
広告が使われるようになったのは、今からおよそ3000年前。エジプトのテーベで、パピルス紙に書かれた広告ビラが発祥とされている。徐々に紙を媒体とした広告が広がりを見せ、1480年のヨーロッパで活字を利用した広告ビラが使用され、近世、1607年にはアメリカでパンフレットが登場し、同時期に日本では“引札”、イギリスでは“絵入りカード”と呼ばれる手で配る絵入りのチラシが使用されるなど、今日見られる広告へと変化した。
現代においてもデジタル媒体への移行が進む一方、デザインの関連書籍では依然として紙媒体のデザインレイアウトの方法を手引きするものも多くあり、紙は広告の媒体の一つとして一般的である。その中にあって独特の存在感を示しているのが「フライヤー」である。
2.フライヤーについて
フライヤーは無作為に配られるわけではなく、特定の場所に置いてあることなどが、その理由の一つである。つまりフライヤーは、興味を持った人が、意識的に手に取ることを特徴としていると指摘できる。そこで重要視されるのはデザイン性である。関連書籍でもレイアウトや、色彩、書体に対しての手引きは記述されることが多い。しかし、フライヤーデザインにおける制作の指針について触れる書籍はあまり見かけない。
そこで、実際のフライヤー制作を行う際に必要とされる要素や、表現についてデザインに携わる人間の思想に基づいて、その指針について求めていきたいと考えた。

調査

1.思想についての調査
ツールの制作の前に、まずは作り手がフライヤーを制作する際に、どの様な思考と手順を用いて制作するのか、架空のイベントを用意し、制作とアンケート調査を行った。制作ではジャンルを3つに絞り込み、フライヤー制作で大切だと思うこと」のアンケート結果を再現することを条件に、デザイン関係者6名に制作を行ってもらった。


2.アンケート調査結果
6名から作品を回収後、フライヤー制作時の制作フェーズや思想について、以下のようなテーマでアンケート調査を行い、訂正調査によって結果を求めた。項目5に関しては、「フライヤー制作で大切だと思うこと」のアンケート結果より導き出された、制作時に重要視されるべきデザイン要素より、質問を設定した。

1.制作プロセス
2.制作中に苦労した点・打開策
3.各フライヤーに求められる要素再現で苦労した点・打開策
4.作品のコンセプト
5.各フライヤーに求められる要素を基にした配色方法や思考について

調査したところ1~4に関する質問については、イベントの詳細やデザイナー個々人の独自の考えや得手・不得手が強く反映され、共通項は見られなかった。5の配色に関しては共通点が見られた。

3.配色の共通点
5の設問について、以下のような質問を行った。
・求められた内容を表現するためにどのように配色を決定したのか
・配色自体のコンセプトについて
設問への回答で、配色を決定する際、イベントの中に出てくるーマやワードに対して抱くイメージで配色を決定したという共通点がみられた。このことからTabel.1の表についての表現で制作を行う一方で、イベントに対するイメージがデザインに影響すると考えた。このことからイメージカラーが共通するのであれば、デザインにおける、抽象的なイメージを表現するための1つの指針になるのではないかと考え、単語と色に対するアンケート調査を行った。

4.単語と色の関係のアンケート結果
アンケートではフライヤー制作で使用したイベントより単語を抽出し、その単語から連想される色を赤・青・黄・緑・紫・白・黒の7色の中から選択してもらった。質問は3ユニットにわけ、フライヤーのジャンル、ジャンルを更に細分化した際の単語、イベントの中に出てきた固有名詞でユニットを分けて質問を行った。

結果より、ジャンル・固有名詞に対して半数を超える固定イメージがあることが分かった。絵画・展覧会など、ジャンルを更に細分化した場合の単語に対しては、固定のイメージがあると判断できるものの、人によってはそのイメージが異なってくることが分かる。このことについて、演劇・ダンス、音楽イベントの単語に関しても同様の結果が見られたことから、イベントのジャンルやイベントが保持する固有名詞に対してイメージカラーが存在することが分かった。
このことから、イベントが持つイメージカラーがフライヤー制作の指針となると考察した。

研究方法

1.ツールの制作
以上のことから、フライヤー制作の指針の1つとして、イメージカラーを上げ「みせるのヒント」と題してツールの制作を行った。

ツールをデザイン初心者に対象を絞り、13名に以下の質問項目に5段階(1.そう思わない2.どちらかというとそう思わない3.どちらともいえない4.どちらかというとそう思う5.そう思う)で評価を行ってもらった。
1.冊子を読み、フライヤー制作に興味を持ったか
2.フライヤー制作の参考になるか
3.フライヤー以外のデザインの参考にしたいか
4.冊子を読んでデザインを行いたいと思ったか
5.冊子の内容で不足している部分(自由記述回答)
以下が1から4の結果である。1から4の結果より、半数のデザイン初心者が参考になること、デザインに対しての興味を冊子から得ることができた。一方で、質問5の記述では「そもそものデザインの学び方から分からないため、その説明がほしい」など、限定的な内容である本誌に対しての苦言が見られた。

まとめ

フライヤーに求められる抽象的な表現に対して、イベントにまつわるイメージカラーが制作に影響することが考察される。特に作り手であるデザイナー自身の、イベントに対するイメージがデザインに半影されることが分かった。そのためフライヤーを手に取る側のイベントに対するイメージカラーを事前に収集し、参考にすることで、イベントのイメージという抽象的なものを配色によってある程度表現ができるのではないかと考えられる。
今回のツール制作ではノンデザイナーにとってこの結果が参考になるか否かを確認したが、ノンデザイナーが実際にこのツールを使って制作したフライヤーが本来の広告としての役割を果たすか否かは結果として出ていない。また、中間の結果である、配色以外の要素も影響を与えることがわかっているため、他要素と合わせた際の影響についても考えると、更に視野を広げて考える必要がある。配色についても、既存の色が持つ心理への影響などを考えると、本研究は「みせる」ことに対しての断片的な要素であることから、更に深く研究を行う必要がある。

参考文献

[1] フライヤーのデザイン 人を集めるチラシのアイデア株式会社ビー・エヌ・エヌ新社 薮内康一(2014)
(2022年9月観覧)
[2]色相環 武蔵野美術大学造形ファイル https://x.gd/uPoJi(2022年1月観覧)
[3]メトロポリタン美術館 https://x.gd/CvSE3(2022年10月観覧)
(Fig3). アンケート結果

研究を終えて

研究を行う仮定で、改めてデザインの目的や考え方を改められたと感じる。今回はフライヤーという商業的な目的を持ったデザインを取り扱った。フライヤーには元来のデザインという論理的な思考を持って制作を行う一方で、芸術的で抽象的な表現と思考を含むことが分かった。今回上記の考えについて改めた理由である。また、そんな抽象的なイメージを実現させるために今回の研究を行い、1つのヒントを得ることができたが、今回求めたヒントを得るまでの過程でもいくつかの分岐点があり、まだまだヒントを得られそうな結果が出た。デザインは明確な答えが無い。今回は求めた断片的なデザインへのヒントを皮切りに、より一層デザインと言う抽象的で答えのない物について深めていく一歩となれば良いと思う。

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