古都多賀城からの脱却
大学跡地の再生による多賀城再興の兆し
三瓶 翔太郎
中田研究室
2021 年度卒業
本研究では東北学院大学多賀城キャンパス跡地を新たな都市構造を持った観光施設兼生活圏に再生させる事による多賀城の新たな魅力を創造し、多賀城の再興を目指した設計を行った。この施設が多賀城における新たな活動拠点となり、交流拠点となり、生活圏となる事で多賀城市に新しくも歴史を感じさせるアイデンティティを付与する事ができ、多賀城市にかつての知名度と賑わいを再び呼び起こす事ができるのではないかと考える。

はじめに

Ⅰ 研究背景

宮城県多賀城市は45号線沿いに栄え、仙台市のベッドタウンとして住宅地を中心に形成されている街である。歴史的に重要な役割を担っていた背景を持っていおり、8世紀から10世紀半ばにかけて西の太宰府に対する東の政府都市として機能していた。現在は多賀城跡や多賀城碑など歴史的価値のある観光資源の保存に力を入れている。多賀城という地名は歴史の教科書等にも登場し、歴史的な知名度はある程度高いものであると考えられる。しかし、現状としては「歴史の街」としての認識は低く、観光客の関心は隣接する仙台市、塩竈市、松島町に偏っている。多賀城市への転入率、転出率共に全国的に見ても高いことから市民の定着率も低く、市民の市に対する愛着が強くないことも伺える。これに追い討ちをかけるように東北学院大学のキャンパスが市外に移転することが決まり、それに伴う多賀城を拠点とした経済活動に従事する人口の流出などが懸念されている。

宮城県における立地の良さと歴史的価値をアイデンティティにまちづくりを進めている昨今の多賀城市であるが、観光客が増えていない点と市民の定着率が低い点を鑑みるに今の魅力だけでは不十分であることがわかる。東北学院大学のキャンパスが移転した後に更なる観光客の呼び込みと市民の定着を促す為には今まで保持していた魅力とはまた別の魅力を創造する必要があると考える。

前期研究では歴史、地理、市の課題、敷地模型によるボリュームスタディなどの観点から多賀城市の現状を踏まえつつ多賀城における新たな魅力となるような施設の在り方を模索した。これを今回の設計提案における事前段階としている。

 

Ⅱ 目的

本研究では、前期研究で模索・提案した施設の在り方と与条件を基に、宮城県多賀城市の新たな出発点となり、今後も多賀城市の魅力として市内での活発な交流を生む拠点となるような空間・建築を提案する。また、宮城県における多賀城市の現在の役割である仙台市のベッドタウンということも考慮し、本来の強みである居住地域としての魅力を生み出すことにも重点を置く。

調査

Ⅲ 分析

前期研究の分析結果から、現在の多賀城市は住みやすいまちづくりに重きを置き、多賀城駅前の空間の整備などベッドタウンとしての機能を伸ばす取り組みを行なっている一方で、観光資源である歴史的私財に関しては保存に力を入れるばかりで観光客が隣接する市町村に大きく劣っている事から活用が不十分である事が見受けられ、また市民の市に対する認識や交流の少なさ、定着率の低さなどから市民に対する取り組みも不十分であるということが推測できた。このことから、観光地としての知名度を向上させ、ベッドタウンとしての観光地となるような歴史の都であるはずの多賀城市における新たな中心地を創造する必要があると考えた。

また、多賀城市は現在、仙台市のベッドタウンとして住宅地を中心に形成されており、市民体育館や学校、高齢者施設など計13個に分類された施設が複数機能していることから市民に対する公共施設は充実している事がわかっている。ここから、ベッドタウンである多賀城市ならではである観光施設兼生活圏となるような敷地の使い方が望ましいのではないかと考えられる。

敷地周辺の調査から、多賀城市内にショッピングセンターのような市内だけでなく市外からも活発に人が出入りする施設が少なく、市の中心部が存在しないことも相まって観光地を目指している市として魅力が少ない印象を受けていることが推測できた。ここから、多賀城市の中心地となるような敷地に求心力のあるアクティビティが必要であると考え、それに伴い歴史的価値のある都市であるという認識を高め、環境対応等に応じた従来型ではなく目を引くような未来型のまちづくりが必要であると考えた。

研究方法

Ⅳ 設計手法

設計手法では建築とその使い方で項目を分けているが、これは同時進行系で行なったものである。

Ⅳ−1 ボリュームスタディ

ボリュームスタディでは大きな建築の中で多賀城駅側から多賀城跡へと繋がる動線を意識させるという目的のため、方向性を設定しやすくボリュームも検討できるスズランテープを利用したスタディを行なった。スズランテープを細かく裂いたものを敷地に両面テープで貼り、それを本敷地の北側に再現される多賀城跡へと向かう人の動線と見立てるため模型を縦に起こしてスズランテープに流れを持たせた。その後、できた流れを持った造形を建築化するために模型を逆さ吊りにし、その際に絡まった部分を人が交流する箇所と仮定し、テープにて建築の視覚化を図った。出来た造形の写真をトレースし、そこから建築空間並びに建築の景観の模索を行なった。

このスタディで得た知見を基に造形の建築化を行なった。建築のボリュームは視覚化された造形の画像をトレースすることで検討し、配置図はその造形の配置を基準に行なった。構造体および景観はスズランテープで行なったボリュームスタディを参考にしている。

 

Ⅳ−2 施設概要の模索

設計する施設は先に述べた与条件を基に、歴史的価値のある街であるという事を再認識させるため多賀城の歴史を彷彿とさせるようなものが望ましい。そこで多賀城を建設する理由であった蝦夷に着目した。多賀城再現と関連して蝦夷の再現を行うことで、多賀城市のアイデンティティである歴史に関与し双方の共存が図れるのではないかと考えた。

蝦夷地では物々交換が主流であったが、律令期には貨幣的な経済も成立していた可能性がある。一方、現代社会は貨幣経済が前提でありながら、モノの価値が電子化され、実際の貨幣に置き換えられることもなく流通が行われていることから新時代の「物々交換」のような流通・経済の発生と捉える。現代社会でこの活動を現実で可視化する事でこれらのモノのやりとりをさらに強化・発展させる経済活動の中心となる都市づくりができると考えた。

 

Ⅴ 提案

Ⅴ−1 設計内容

分析や調査、ボリュームスタディで得られた情報や造形を基に、多賀城市における新たな魅力となる観光施設兼生活圏と設定した施設の設計を行う。

本設計は主に以下の二つのエリアで構成される。

①物々交換エリア

②居住エリア

これらのプログラムが同じ敷地内で共存することにより、多賀城市のベッドタウンとしての住宅地の一つとしての役割を担いつつ、物々交換による経済活動及び独特の生活感を感じる事ができ、尚且つ現代にそういった経済システムで成り立つ生活圏を創造することで、多賀城市ならではである魅力になり得ると考えられる。

Ⅴ−2 計画敷地

本施設の敷地は東北学院大学多賀城キャンパス跡地とする。敷地面積は約117,000㎡で、北側に向かうにつれ緩やかに傾斜が続いている。土地の形状は東北学院大学が鎮座する現在の土地の形状と同じである。アクセスは良好で新たな観光施設の敷地としての条件は整っている。

Ⅴ−3 配置計画

配置計画は以下の通りである。西側に物々交換エリア、東側に居住エリアが広がっている。敷地内には道路もあり、車の出入りができるようになっている。

 

Ⅴ−4 空間構成

①物々交換エリア

物々交換エリアでは来訪者と市民双方が交流するエリアである。よって一階にあたるレベルはピロティとなっており多様な交流が期待できる。二階以降にあたるレベルには物々交換ができるエリアが広がっており、多くの交流が期待できる。南から北に向かうにつれ滞在時間を長くするように設定しており、これは北側へ向かう動線を意識させ、本敷地の北の方角に鎮座する多賀城跡に近い位置で利用者が滞在する事により多賀城市全体としての賑わいを創造する可能性を示すためである。

②居住エリア

居住エリアでは本敷地による多賀城市への移住の増加を見込み、居住地を増やす事ができるように設計する。これにより住環境を有した新たな都市構造を形成する観光施設の可能性を引き伸ばす事ができるのでは無いかと考えられる。本制作の一部として機能する事でより活発な経済活動が期待できる。

まとめ

Ⅵ 考察

本制作では古都多賀城市の再興に向けた出発点となる活発な交流が生まれる観光施設兼生活圏の提案を行なった。テープによる動線を意識した造形と物々交換という古いようで斬新な経済システムを用いる事で結果としてランドマークのような設計を行い、新たな都市構造を考える事で多賀城市にとって新たな魅力となる可能性を示す事ができた。

一方で造形を建築設計に落とし込む際、ヒューマンスケールに置き換えて設計を行う必要があるため、造形で生まれた空間の取捨選択を迫られる事があり、造形によって現れた良さの組み込み方のプログラムを推敲する事が本手法において重要であると感じた。

 

Ⅶ 展望

東北学院大学多賀城キャンパスが移転して空き地となる事が確定している中、多賀城市を再興させるための提案を行なった。この施設が多賀城市における新たな活動拠点となり、交流拠点となり、生活圏となる事で多賀城市に新しくも歴史を感じさせるアイデンティティを付与する事ができ、多賀城市にかつての知名度と賑わいを再び呼び起こす事ができるのではないかと考える。

参考文献

Ⅶ 参考文献

・多賀城市公式ホームページ

https://www.city.tagajo.miyagi.jp/index.html

・国土地理院

https://maps.gsi.go.jp/#17/38.296808/141.003202/&base=ort&ls=ort&disp=1&vs=c1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f1

・市民文化財研究員活動報告書

http://www.sendai-c.ed.jp/~bunkazai/~chiteinomori/common/images/learning/24.pdf

研究を終えて

この研究を通して建築設計をするにあたってのリサーチのプロセスはもちろんのこと、造形から始まる建築のボリュームスタディを学ぶ事が出来た。テープによる動線を意識した造形と物々交換という多賀城にとって因縁のような経済システムの構図を作ることで、多賀城市という観光地としてはあまり認知されていない市が再興する条件を整える事ができるのでは無いかと考えられるため、この手法を他の地域にも当てはめて考えて、地域の再興の兆しを探っていきたい。

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