リフレーミング能力向上のためのカードゲームの提案
猪又 彩加
日原研究室
2021 年度卒業
近年ストレス社会が問題視されてきた中、新型コロナウイルスによる新たなストレスも増えた。本研究では、ストレスへの捉え方を見直す方法の提案を行うことを目指し、遊びを通してストレスに遭遇した際に物事を多方面から捉え直して考える能力を向上する一手段として、リフレーミングを活用したカードゲーム「PARAPHRASE」を提案する。

はじめに

日本は「ストレス社会」と言われており、過剰なストレスによる心身の不調が日常生活に支障をきたすなど問題となっている。マイボイスコム株式会社の『ストレス』に関するインターネット調査(2019年7月実施)の結果によると、日ごろの生活の中でストレスを感じている人の割合は67.4%であり、半数以上が日常生活の中でストレスを感じている。また、筑波大学が行った「新型コロナウイルス感染症に関わるメンタルヘルス全国調査(2020年)」によると、8割の人が新型コロナウイルスにストレスを感じており、約半数の人が恐怖や不快感を有しており、うつ・不安、PTSD症状とも、従来の災害と同程度、またはそれ以上に高かったことが分かった。

昨年からの新型コロナウイルス流行により更にストレス社会化は加速しているといえる。変化も早くストレスが増える社会の中で、人々がより快適に暮らすために、出来事を多方面から捉え直す能力の向上が必要だと考える。

調査

2.1 提案内容

本研究では、近年ストレス社会が問題視されてきた中、新型コロナウイルスによる新たなストレスも増えた。その中で、ストレスへの捉え方を見直す方法の提案を行うことを目指す。

2.2 ターゲット・ステークホルダー

ターゲットは、人格形成に関わる小学校低学年をはじめとして、カードゲームを理解できる人々とする。

2.3 価値創造

遊びを通してストレスに遭遇した際に物事を多方面から捉え直して考える能力の向上を目指す。

研究方法

4.1 文献調査

4.1.1 ストレスとは

ストレスとは外部から刺激を受けた時に生じる緊張状態のことである。 ストレスの原因はストレッサーと呼ばれ、同じストレッサーがあったとしても、ストレッサーに対する認知的評価の差によってストレス反応の現れ方は個人によって異なる。ストレッサーは様々であり、全てのストレッサーを完全に排除することは困難である。

4.1.2 ストレスコーピングとリフレーミング

ストレッサーへ対処しようとすることをストレスコーピングといい、大きく問題焦点型コーピングと情動焦点型コーピング、ストレス解消型コーピングに分けられる。問題焦点型コーピングとは、ストレッサーそのものに働きかけ、それ自体を変化させ解決を図ることである。一方、情動焦点型コーピングとは、ストレッサーに対する考え方を変えることである。ストレス発散型コーピングとは、既に感じてしまったストレスを旅行や音楽鑑賞、瞑想などで発散させることである。全てのストレッサーに対して直接アプローチして状況を変化させることは不可能だが、全てのストレッサーに対して、自身の考え方や受け取り方を変化させることは可能といえる。「情動焦点型コーピング」の手段の一つには「リフレーミング」というものがある。リフレーミングとは、ある出来事や物事を、今の見方とは異なる見方をすること(置かれている状況・内容)で、それらの意味を変化させて、気分や感情を変えることをいう。実践することで、物事を捉え直し、モチベーションアップやコンプレックスの軽減・解消と、物事への苦手意識を弱めることができるなどの効果が期待できる。

4.2 施策の提案

リフレーミングを活用したカードゲームの提案を行う。カードゲームを媒体として選択した理由として以下を挙げる。

  • 楽しみながら取り組むことが可能
  • 従来のリフレーミング方法と異なり表でまとめる手間がないため、取り組み続けやすい形式のものである
  • 場所を選ばず複数人とリフレーミングを行うことができ、ゲームを通して様々な人の物事の捉え方に触れることができ、考え方の視野を広げることに繋げることができる

4.3 制作

4.3.1 ロゴ

タイトルは言い換えるという意味をもつ『PARAPHRASE(パラフレーズ)』と名付けた。一つのネガティブな事象を言い換えるゲームとするため、吹き出しをモチーフにし、言葉が重なるイメージをロゴデザインとした。(図1)

 

図1.カードゲームタイトル及びロゴ案

 

4.3.2 パッケージ及び内容物

図2は制作物「PARAPHRASE」の画像である。全体として、ピンク・水色・黄色の3色でまとめることを意識した。ゲーム内で使用する事象カードは40種類のネガティブに捉えやすい事象を記載した。丸い形状にすることでやわらかい印象になるようデザインした。裏面は制作したロゴを活用したシンプルなデザインとした。説明書は内容物と遊び方について記載をし、読みやすさ向上のため、手書きのイラストを挿入した。チップはレーザーカッターを使用し、アクリル板で制作した。持ちやすさを検討し、サイズを22㎜とした。

 

図2.制作したカードゲーム

 

4.3.3 ゲームルール

ゲーム参加人数は3-5人。所要時間は10分を想定している。カードゲームルールは以下の通りである。

  • 事象カードをメンバーの中心に置き、山札から一枚ワードカードを引く。
  • 引いた事象カードに対して、ポジティブに捉えた回答を全員が言う。
  • 全員が言い終えた後、「いいな」「その発想はなかった」と思う発言をした人を投票し、一番多く集まった人にチップを渡す。また、同票の場合は両者がチップをもらえる。
  • 1-4を決めた回数繰り返す。(3-5回を想定)
  • 決めていた回数を終えた後、最後にチップを多く持っていた人が勝利。

制作過程で、実際に遊んでもらいルール修正を行った結果上記のルールとなった。遊戯を行う際の約束事項として「メンバーの発言を否定しない」と記することで、より自由な発言を促進できると考える。また、日常にリフレーミングを取り入れることを促すため、「ゲーム以外でも、生活の中でも言い換えることができるものを見つけてみよう」と文章を加えた。

 

5.検証

検証は、対象被験者(14人)に実際にカードゲームで遊んでもらい、リフレーミングや制作した「PARAPHRASE」に関する質問に回答してもらった。リフレーミングに関する項目では、「リフレーミングを日常的に行っているか」という質問に対して「普段から意識せずとも行えている」という回答が14.3%、「気づいたときに行っている」という回答が28.6%、「ほとんど行っていない」という回答が42.9%であった。また、制作したカードゲームに関する項目において、「このゲームはリフレーミング能力向上に有効かと感じますか」という質問では、「とてもそう思う」という回答が64.3%、「少しそう思う」という回答が35.7%だった。

まとめ

今回の研究においては、ストレスコントロール能力を向上させる一手段としてカードゲームの制作を行った。

制作したカードゲームを実際に遊んだ感想として、「人によって場面ごとの捉え方が違って、新しい視点から物事を見ることができ、楽しかった」「複数人で遊ぶことで自分だけでは出てこないような考え方や発想に触れられていいと思った」といった肯定的な回答を得たことから、楽しみながらリフレーミングを行う手段を提案することができたのではないかと考える。また、ゲームルールについては、「スピード感があるゲームに感じた。」「複数ルールを設けても楽しめる要素が増えそうだと感じた。」などの意見もあり、ローカルルールを加えることで、より楽しみながらリフレーミング能力を向上できると考える。

参考文献

  1. ストレスコーピング-自分でできるストレスマネジメント(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhas/6/2/6_2_2_1/_pdf)
  2. 出来事の視点を変えてポジティブに考える

~リフレーミングを活用したストレスマネジメント(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jkg/67/3/67_121/_pdf/-char/ja)

  1. 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-068.html)
  2. カオナビ人事用語集(https://www.kaonavi.jp/dictionary/reframing/)
  3. マイボイスコムのアンケートデータベース(https://myel.myvoice.jp/products/detail.php?product_id=25210)
  4. 新型コロナウイルス感染症に関わるメンタルヘルス全国調査 | 筑波大学医学医療系臨床医学域 災害・地域精神医学 (umin.ac.jp)
  5. パイインターナショナル(2019)1枚デザインの構図とレイアウト

研究を終えて

制作したカードゲームを実際に遊んでもらうことで多方面からの意見を得ることができ、制作中には気づくことができなかった課題点を知ることができたり、カードゲームの魅力を実感することができた。

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