小学校の部分的転用を考える
浅野天星
小地沢研究室
2021 年度卒業
本研究の目的は、小学校の廃校化が進む中で児童館の需要が高いことに着目し、両者が一体となっている施設において児童数が減少した際の小学校の在り方を検討することである。研究結果としては、児童館と小学校の設置時期が異なることが問題として明らかとなった。設計提案では、需要の不均衡から生じる空き施設について部分的に高齢者福祉施設に転用することを目指して設計を行った。

はじめに

  1. はじめに

近年少子化により廃校となる小学校が増加している。一方で、女性の社会進出による共働き世帯の増加により児童館の数はほとんど変わらず、児童館の需要は高い。また、利便性の面から児童館と小学校が同一敷地に一体的に整備されている事例が多くある。

小学校の転用に関する論文は豊富にあるが、児童館の転用に関する論文や小学校と児童館の一体的整備に関する論文は存在していない。

そこで本研究は、両者が一体的に整備されている場合において、転用する上での障壁を調査し、知見を得ることを目的とする。予備調査1)では、小学校の転用を行うことが容易になっていること、基金積立によって補助金を返還せずに転用している事例が多いことが分かっている。

 

  1. 研究概要

2.1 研究概要

本研究では、一体的整備のなされている施設が多い仙台市を研究対象とした。本研究における一体的整備とは、敷地や建物が同じであることを基準としている。ただし、敷地が別であっても、小学校の敷地を分割し、児童館を設立したものは一体的に整備されたものとしている。また、小学校と児童館が同一建物内に設置されているものであっても、余裕教室を利用している児童館は、設置にかかる改修工事などを伴っていないため除外した。以上の条件から、Table 1にある24施設を対象とした。

調査

調査方法

まず、調査対象である24か所の児童館と小学校の建築年や国庫補助年度などの施設データの整理を行う。

次に、現時点で転用する際に、予備調査で明らかとなったフローチャート(fig. 1)のどこに該当するかをまとめる。

最後に、過去の地図データや児童数の推移を調査し、そのデータをもとに児童館が設置された経緯について検討を行い、一体的となっている理由を探る。

 

  1. 調査結果

3.1 補助年度とパターン

ここでは、フローチャートに沿って小学校と児童館を分類する。調査対象のうち補助金を受けずに設立した小学校は、なかった。補助事業完了後10年以上経過していないものは、蒲町と南光台である。これらを転用する際には大臣の承認を受けた上で補助金の返還が必要であることが分かった。これはCパターンに該当する。その他の場合は、処分制限期間を経過しておらず、国庫補助事業完了後10年以上経過しているものである。このうち有償転用は、大臣の承認を受けて転用を行い補助金の返還を行うDパターン、基金積立を行い補助金の返還が不要であるAパターンに分類でき、無償転用は大臣への報告のみで転用することができるEパターンに分類することができる。

児童館について補助金を受けずに設立したものは、八幡、東六番、八乙女、八木山の4つであり、これらの児童館を転用する際には財産処分手続きに影響せず、大臣の承認も不要である。これはGパターンに該当する。補助事業完了後10年以上経過していないものは東長町と南吉成である。これらを転用する際には大臣の承認を得た上で補助金の返還が必要であるCパターンを選択するか、もしくは、同一事業を10年以上継続し、大臣の承認を得たうえで補助金の返還が不要であるBパターンを選択する必要がある。その他の場合は、処分制限期間を経過しておらず、国庫補助事業完了後10年以上経過しているものである。このうち、有償転用は、大臣の承認を受けて転用を行い補助金の返還を行うDパターン、無償転用は大臣への報告のみで転用することができるEパターンに分類することができる。

3.2小学校の児童数

児童数は、1989年の7万人から2021年では5万人に減少傾向があった。しかしながら、小学校数は120校前後で推移しているため1校当たりの平均児童数が減っていることが読み取れる。研究対象の児童館では放課後児童クラブの上限数に対して登録者数が9割前後と高いことがヒアリング調査で明らかとなった(Table 2)。

3.3敷地一体型の導入背景

小学校と児童館が一体的に整備される背景として児童館建設のための敷地確保が難しいことや児童館に付属する園庭を確保するため、児童の安全を守るためなどが考えられる。実際に、児童館が建てられた時期の住宅地図では、住宅地の開発が進んでいることにより、敷地や園庭確保が難しかったことを確認することができた。また、元々小学校とは別の敷地に児童館があり、後に小学校の敷地に移転された事例の背景には、利便性や安全性の確保などの理由があったことが推測できた。

(1)八乙女児童館の移転経緯

旧八乙女児童館は、八乙女中学校と八乙女児童遊園に隣接して1974年に設置された。当時は、八乙女地区の宅地開発は進んでおらず、学区の中心は近隣団地であった。その後の宅地開発で児童数が増加し、南光台中学校が分離開校された。1987年に仙台市地下鉄が開通し、国道と八乙女駅をつなぐ市道の開通により、八乙女児童遊園がなくなった。建物が新しかったため現地で存続していたが2008年に八乙女小学校の敷地内に移転された。

(2)南吉成児童館・南光台児童館の移転経緯

どちらの児童館も小学校が開校する前に設置されていた。旧南吉成児童館は吉成小学校の児童数が増加したことにより、近隣に新しい小学校、児童館が新設され、地区の中心にある必要性がなくなったため小学校の敷地内に移転されたと推測できた。旧南光台児童館は学区の端に存在していたため、多くの児童が小学校から遠い児童館に通うことへの危険性を回避する目的で小学校の敷地に移転されたと推測できた。

研究方法

本研究では、小学校と児童館が一体的に整備されている事例において、どちらか一方の施設が廃止となった際に転用する上での障壁について調査してきた。現実的に、転用を行うためには処分制限期間を経過する前に補助金返還額相当の基金積立を行うことや、無償転用を行うことで遊休施設を有効活用する選択を取るということが分かった。また、仙台市のデータから、一体的整備がされている小学校では児童数が多い現状と、放課後児童クラブの登録者数が多いということが分かった。設計するにあたり、転用に備えた建て替え案が妥当であると考える。

以上の事から、小学校を建て替え、児童館と小学校の複合施設の設計を行うこととした。また、児童数が減少した際には、小学校の廃校を待たずに小学校・児童館・高齢者福祉施設の3施設を複合化した施設利用ができる設計を提案する。

設計提案では鶴ヶ谷小学校の敷地に鶴ヶ谷東小学校を併合し、建物内に児童館を併設することを考えている。また、児童数が減少した際には、部分的に高齢者福祉施設に転用し、学校の地域開放や、地域のニーズに対応した使われ方の変化がある学校を提案する。鶴ヶ谷小学校と鶴ヶ谷東小学校はともに築50年程度であり、両校の距離が近いことや児童数が減少していることを踏まえて、選定した。

具体的には、建て替え時には生徒数600名各学年3クラスと少人数教室を設け、一般的な小学校と同じ使われ方を想定する。学校の地域開放では、児童館部分を含め、図書室、体育館などを想定し、学校とのセキュリティ区分に留意している。20年後では、生徒数が減少することを想定し、学校の一部を高齢者福祉施設に転用する。厚生労働省所管である児童館が既に整備されているため、管理の面でも高齢者福祉施設が入ることによるデメリットは少ないと考える。学校開放区分では、さらなる開放に備え理科室や家庭科室、音楽室などもあらかじめセキュリティ区分のできる対応を考えている。40年後では、さらなる生徒数減少により廃校を想定し、高齢者福祉施設と児童館の複合施設に転用されることを想定している。学校建築としては、ワークスペースやラーニングスペースを各所に配置し、従来型の8×8スパンの教室に付随することで少人数学習やグループワークなど教室外での学びを促進できることを目指している。

まとめ

調査結果から、小学校では多くの場合で補助事業完了後10年以上経過しているため、基金積立を行った上での有償転用か、無償転用を選択できることが分かった。また、児童館では有償転用では補助金の返還が必要であるため、無償転用が選択されることが分かった。いずれにせよ、転用する際に10年以上経過していた場合には補助金の返還が不要となる選択ができるため、障壁にはなりにくいということが分かった。放課後児童クラブの登録者数や移転経緯からは、利用者が多い施設では、敷地確保や園庭確保のほか利便性や安全性など様々な面で一体的整備が行われてきたということが分かった。

参考文献

  • 浅野天星:敷地一体型小学校と児童館の今後の可能性に関する検討,宮城大学令和3年度卒業研究Ⅰ成果発表予稿集,47-48,2021

研究を終えて

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