座席選択における意識調査と座席レイアウトの提案
―建築的要因がオープンスペースでの座席選択に及ぼす影響に関する研究―
おがわ
井上研究室
2022 年度卒業
現在の感染症対策により依然と大きく様子を変えた座席空間に注目し、座席選択の際に影響する周囲の環境や意識に注目し、座席空間の観察やヒアリングによる意識調査を行った。それらの調査の結果から座席選択の際の行動について分析し、座席空間の新しい在り方を提案する。

はじめに

本研究の目的は建築的要因がオープンな空間の座席選択においてどのような影響を与えるかを明らかにし、会話や討論、協力作業など目的によって最適な座席空間を提案するものである。その一環として座席空間でのグループ形成の観察とパターン化と分類、ヒアリングによる座席選択に対する意識調査を行った。これらの結果より建築的な面から座席空間の提案を行う。現在、座席空間のあり方が大きく変わってきている。感染症対策として飲食を伴う場所では人と向かい合う席において飛沫拡散防止のためのアクリル板が設置されている、向かい合った席は一方が使用不可になっているなど、数年前とは大きく変わった様子が見られる。しかし中には対策を無視し座席を利用している様子も見受けられる。そこで建築的な面から人々の意識に働きかけることで行動を誘導・制限することができないだろうかと考えた。座席選択に関する研究として Steinzor (1950)は集団での座席位置に注目したスティンザー効果と呼ばれるものを発見した[1]。これは座席の位置によって相手に対して仲間意識や敵対心が働くというものである。また松尾貴司(1993)[2]によれば国によって目的別に座席選択行動に傾向が見られるが日本人はそれが比較的顕著ではないと述べている。これらのように座席選択に対して心理的な要因に関する研究は見られるが、建築的要因から座席選択に対してアプローチしている例は少ないと感じる。そこで本研究では建築的要因が座席選択に及ぼす影響について明らかにする。

調査

調査方法

調査1

調査対象として宮城大学大和キャンパスのカフェテリアを選択した。カフェテリアを選択した理由として本研究に取り組むきっかけとなった感染症対策がなされている点、それらを無視した集団形成が見られた点、場所によって天井高に違いがある点が挙げられる。カフェテリアにおいて月曜日から金曜日の学生が一番多く集まる12時20分を目安に利用者の分布と集団形成を観察、記録した。カフェテリアの座席表に着席している人の分布、グループ形成の状態を記録した。ここでは長方形を2人席、正方形を4人席として表している。人1人を●で表しテーブルをまたいでのグループ形成を線で囲んでいる。表1に記録方法を示す。ここでの記録により確認できたグループ形成を全てパターン化、分類する。

調査2

座席選択に関するヒアリングを学生10人に行った。また、性別 によって回答に差が生じるかを調査するため調査対象10人の内訳 は男女5人ずつとしている。座席選択における意識や行動、座席 空間の環境に関する7つの質問を行い、内容によって適宜追加の 質問や確認などを行った。ヒアリング調査において全ての質問の 回答に対してその理由を明らかにしてもらった。質問内容は以下に 示しその回答、理由は表に示している。また、回答者に自身の性 格について内向的か社交的かという質問を行い性別と合わせて当 人の属性によって回答に傾向があるかを分析する。

質問内容

(1) 目線を遮る仕切りがあれば他人と相席できるか

(2) 初対面の相手と仕事の打ち合わせをする際、どちらの座り方を好むか

 (図1、2参照)

(3) 友人との待ち合わせではどの座席を選択するか(図3参照)

(4) 行き慣れた飲食店や図書館では決まった席を選びがちか

(5) 図書館などで隣に人がいる場合、作業にどのような影響があるか

(6) クリエイティブな作業にではどのような環境が捗るか

(7) 単調な事務作業などではどのような環境が捗るか

調査結果

調査1

カフェテリアでの座席の座り方、グループ形成は右の図のように2人席、4人席において図4、5、6のA〜Kのように分類することができた。それらのパターンごとの発生件数は表2、3、4の通りである。2人席においてC、Dパターンは特徴的なグループ形成の仕方と捉えるがアクリル板の回避や会話を行う際に働く心理的な要因によるものであると考える。また、Cパターンは特に座席表における左下、カフェテリアのエントランス側で多く見られた。この箇所は他と比べ柱や仕切りに囲まれている上にカフェテリアの2階部分が突き出し一部天井高が低くなっている。このような建築的要因から閉塞感が生まれることによって発生する傾向があることがわかった。4人席で見られたKパターンのなかで一方のテーブルに4人、もう一方に2人が対角線上に着席し、その1人が隣の4人とグループを形成している例が一件観察された。アクリル板があることで同一のテーブルでも相手との境界がはっきりとし、相席という形で利用することが容易になっているのではないだろうか。

調査2

ヒアリング調査の内容と結果は表5の通りである。ヒアリングの結果から性別や性格と座席選択に対する意識に関連性は見られなかった。調査結果の分析から座席選択には目線が強く影響していることが明らかになった。(1)の目線を遮ることができれば相席が可能という回答、(2)では向かい合った席を好む場合、相手と目を合わせて会話したいという理由が挙げられ横並びを好む場合、目線が会うのが負担と感じそれを避けたいという理由が挙げられた。回答は異なってもそれらは目線を理由とするものだった。(6)、(7)の作業空間において望ましい環境について性格の異なる2つの環境が有効であると考える。この調査によって性格や他の質問との関連性は見受けられず傾向は掴めなかったがヒアリングの結果からクリエイティブな作業と単調な事務作業において賑やかな空間と静かな空間どちらも有用性は見受けられた。

表5 表1 図1.2.3 図5 図6 図4 表2 表3 表4

 

研究方法

まとめ

本研究では宮城大学大和キャンパスのカフェテリアにおける座席の利用パターンとそれらの発生件数の観察、座席選択に対する意識調査を行った。カフェテリアの観察ではアクリル板を回避する動きが見られ、その場の閉塞感などに起因すると思われるグループ形成を確認することができた。また、アクリル板があることによる特殊な座席選択の形も観察できた。ヒアリング調査からは質問の回答から座席選択の際に目線が強く影響を及ぼすことがわかった。他人と目線が会うことを好ましく思うか避けようと思うかはそれぞれであった。カフェテリアにおけるグループ形成の観察の結果も踏まえると不透明のパーテーションは感染症対策としてだけではなく、飲食店や図書館など様々な座席空間において有効であると考える。特に1人での利用者が多い場所では座席の着席効率や利用者の快適性の向上につながると考える。また、作業空間の環境について目的に応じて賑やかな空間と静かな空間どちらも有用性があるという結果になった。今後の課題として、座席空間の環境について天井高や照度、周囲の人間など様々な条件の空間のもとでどのような座席選択を行うのか実験的な調査を行うことによって座席選択に影響を及ぼす要因をさらに明確にしていくべきだと考える。また、ヒアリング調査についてより多くのデータを得るためにアンケート形式の調査を行い、よりはっきりとした座席選択に関わる意識の傾向をつかみ、座席空間の提案を行う。

参考文献

[1]Steinzor, B. The spatial factor in face to face discussion groups. The Journal of Abnormal and Social Psychology, 45(3), 552–555. (1950)

[2]松尾貴司「座席選択に関する調査」:愛知淑徳短期大 学研究紀要 第32号 (1993)

研究を終えて

座席を選ぶというだけの行動にも様々な要因が絡み、様々な思考によって行われていることが改めて感じた。

追求すべき点はまだたくさんあると感じた。

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