港町 塩竈市における周遊計画
「日常」に触れる「非日常」な空間の設計
大久保 拓海
平岡研究室
2021 年度卒業
本研究は、宮城県塩竈市における周遊・滞在を促す空間の提案から、市内の活性化を図ることを目的とする。アルベルゴ・ディフーゾをもとに宿泊・周遊をアテンドする空間の提案を行う。塩竈の日常の追体験を観光資源とすることで、市民の生活と観光が密接に関わり合い、塩竈に泊まる意味として機能することを目指す。

はじめに

本研究は、地域の周遊・滞在を促す空間の提案から、その地域の活性化を図ることが目的である。私の出身地である宮城県塩竈市には「漁港・商港・観光的門前町」という3つの側面がある。しかし神社などがある門前町エリアと魚市場などがある漁港エリアとで、観光の盛り上がりについて格差があるのではないかと感じる。また、それぞれのエリアで観光スポットは存在しているものの、それらを周遊し、市内に滞在する観光客は少ないのではないかとも感じる。このような動機から、「周遊」をキーワードに観光の面で塩竈市を盛り上げたいと考える。

調査

空間の提案を考えるにあたって、まずデータを用いて塩竈市の現状や課題の整理を行った。それにより得られた2つの現状と課題を以下に示す。

(1)観光スポットの点在

塩竈市の代表的な観光スポットとして「鹽竈神社 / マリンゲート塩釜 / 塩釜水産物仲卸市場・塩竈市魚市場」が挙げられる。これらはそれぞれ門前町 / 商港 / 漁港エリアに属している。それを踏まえ図1から、3つのエリアで観光の盛り上がりに格差が生じていると言える。また鹽竈神社と塩釜水産物仲卸市場の月別の客数について、鹽竈神社に関しては1月(592,300人)、塩釜水産物仲卸市場に関しては10月(41,367人)の客数が年間客数の約半数を占めている。これは初詣(1月)や、どっと祭(10月)という市場内のお祭りがあるからだと考えられる。これらのことから、塩竈市は通年的な観光に乏しく、観光スポットが点在してしまっているという課題が読み取れる。

(2)短い滞在時間

塩竈市の歴史を遡ると、遊女屋が72軒(1925年)、駅前のみでも旅館が11軒(1955年)存在していた。しかし現在は宿泊施設が3軒に減少し、以前のように市内に一泊し旅の疲れを癒す、という観光客が減少してしまっている。また図2から、塩竈市への観光客のうち、市内に宿泊する観光客はわずか1割しかいないことが読み取れる。残りの約9割の観光客のほとんどは仙台港や松島などの周辺エリアに回遊してしまっている。すなわち、塩竈市に隣接しているリゾートエリアの松島や、安値で泊まれるビジネスホテルの多い仙台市中心部が主な宿泊地となってしまっている。これらのことから、宿泊を含め塩竈市内を周遊観光していた以前に比べ、市内に宿泊する観光客が減少し、それに伴って塩竈市に滞在する時間が減少していることが課題として読み取れる。

研究方法

これまでに示した塩竈市の現状や課題をもとに本研究では、以下の2つを設計主旨として空間の設計を行う。

(1)日常を体験する非日常な空間

観光の面から塩竈市の活性化を図ろうとする本研究において、現在の塩竈市の観光の方向性が示された「塩竈市観光振興ビジョン」を参考にする(図3)。その中で、第一の観光が「一般的な観光分野」という記述がされているのに対して、第二/第三の観光に関しては「今後の成長が期待されている分野」と記述されている。また第二/第三のどちらにも共通して、塩竈特有の観光資源を観光客に非日常な体験として楽しんでもらう、という考え方があることが読み取れる。これらを踏まえて本研究では、一般的な観光資源に加えて、塩竈市の日常を観光客に非日常として楽しんでもらう、という価値を付加することを設計趣旨とする。

(2)アルベルゴ・ディフーゾ×コンテナ

アルベルゴ・ディフーゾ(以下,AD)とはイタリア語で「分散した宿」を意味し、町全体でホテルの機能を構成することで町の持続可能な活性化を図るものである。本研究ではADを用いることで、Ⅱ章で挙げた塩竈市の課題を解決できるのではないかと考える。点在した観光スポットを逆手に取り、宿泊機能を点在させることで市内の周遊を促し、宿泊を増加させることで滞在時間の増加に繋げる。また、ADは空き家を活用した例が多く見られるが、本研究ではコンテナハウスを用いて設計を行う。これは移動の容易性から分散に適しており、活性化が進んだ後の地域振興に対して可変であると期待できるからである。

対象地域

本研究では観光振興の差に着目し、振興があまり進んでいない漁港エリアを対象地域とする。対象地域を4つの地域に分け、ADの考え方を用いて分散して建物を配置していく。

【駅前エリア】市内の主な玄関口である本塩釜駅を中心としたエリア。漁港・商港・門前町が交わっており、ターミナルのような役割を果たす。

【北浜地区エリア】「被災市街地復興土地区画整理事業」により、防災性の強化、商業・工業系の拡充、職住近接型の居住環境の形成及び保全が図られるエリア。鉄道、道路ともに交通利便性に優れ、護岸には北浜緑地公園が整備され、塩釜湾とその対岸を一望できるランドスケープを保持している。

【ドックエリア】造船所とレジャーボートが存在するエリア。事業者としては東北ドック鉄工(株)、東北重機工事(株)、くろしお北浜マリンベース、(株)マリンテックが存在する。国道沿いのため車通りは多いが、生活施設が駅の北側に集中しているため、歩行者はあまり見受けられない。

【漁業エリア】曲木漁港、塩釜水産物仲卸市場、塩竈市魚市場が存在するエリア。国道から少し離れており、市場に来る観光客と漁師、釣り人が主に利用する。また蒲鉾などの水産加工場が多く立ち並んでいる。

設計内容

①受付・総合案内所

宿泊などの受付を行う施設。周遊を促すため、レンタサイクルショップを併設する。駅前エリアに配置し、駐車場も設けることで、観光客はここから徒歩または自転車で塩竈市内を観光する。塩竈市を周遊する観光客の拠点となることを期待する。

②宿泊施設(4軒)

ADをもとに分散して配置し、周遊と滞在を促す施設。コンテナハウスを用いることで、地域振興による場所の移転を容易にする。それぞれの敷地ごとにワークプレイスやアウトドアスペースなどの要素を付加することで、塩竈に泊まる意味が生まれることを期待する。

③ハイライン

観光客の周遊を促す歩廊のような施設。レジャーボートとドックを観光資源として、歩きながらシークエンスが変わっていくような通り抜け空間かつ人が留まり交流するような空間を目指す。銭湯を併設し、観光客の利用に加えて市民や漁師への還元も期待する。周遊の休憩所としての役割も付与するため、カフェやコンビニを設ける。

まとめ

本研究では、ADを用いることで地域を周遊させ、地域の活性化を促すような空間の提案を行った。門前町 / 漁港エリアの中間に周遊施設を設けることでエリア間の周遊を生み、それが市内の周遊、滞在時間の増加に繋がり、塩竈市の活性化に寄与していくだろう。また塩竈市の日常を非日常な観光資源として提案することで、市民の生活と観光が密接に関わり合い、それ自体が塩竈に泊まる意味として機能することを目指した。さらに、塩竈市の活性化に応じたコンテナハウスの移設や撤去、他の宿泊施設などの誘致により、塩竈市内の代謝が生まれていくことを期待する。それがさらなる地域振興を生み、最終的には宿泊の機能が他の施設に担保され、市内の観光/宿泊/滞在のモデルが構築されることを望む。

参考文献

◇小西利兵衛「仙台昔話 電狸翁夜話」東北印刷株式会社/1925年4月

◇「ゼンリン住宅地図」ゼンリン/1955年

◇「塩竈市観光振興ビジョン」塩竈市/2018年3月

◇「仙塩広域都市計画地区計画の決定(塩竈市決定)」塩竈市/2018年12月

◇「塩竈市ホームページ ホーム」

https://www.city.shiogama.miyagi.jp/ (2022年1月12日確認)

◇「イタリア発祥の『アルベルゴ・ディフーゾ』(分散型ホテル)の魅力」

https://akiya123.hatenablog.com/entry/2018/06/18/091041

研究を終えて

私の地元である宮城県塩竈市を舞台に卒業研究を行うことができ、地元の良いところの再発見、改善すべきところの考察を行うことができて、とても有意義な研究となりました。

本研究を進めるにあたり、熱心にご指導いただきました平岡教授に深く感謝いたします。

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