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SNS時代の映画プロモーション
髙橋惇
日原研究室
2021 年度卒業
映画産業は大衆娯楽として一般化している。しかし国民一人当たりの年間の映画館での観賞数は少なく映画産業には新たな顧客の獲得が必要といえる。本研究では個人単位でも行われる映画レビューに着目し、キャラクターといった新たな価値を加えることで顧客獲得を目標とした。制作にあたり課題となったのが著作権である。ファスト映画のように作品を毀損しない線引きを見つけることが本研究の解決すべき重要課題となった。

はじめに

1.はじめに

大衆娯楽の象徴として知られる映画産業は、コンテンツ事業に関する限りは、今日のDVD等家庭用メディア或いは動画配信サービス等の利用拡大にともなって、より一層娯楽・エンターテインメントとして一般化しているといえる。しかしながら劇場映画に関してみると、国内で1年に公開される本数はここ数年1000本を超えているのに対し、国民1人当たり、1年間のあいだに映画劇場に出向いて観る映画の本数は平均1.3本と少ない。(表1) その一方で、月1回以上、映画劇場に出向いて映画を観るという人は凡そ7割存在し、その平均は年間28本である。このことは、劇場映画に関しては、それを熱心に鑑賞する人とそうでない人との差が大きいことが分かる。つまり劇場映画産業は熱心な一部のファンに支えられているものと考えられる。折りからのコロナ禍による劇場映画の落ち込みは大きく、回復支援のための策は急務といえる。

(表1)

2.目的

2.1 提案内容

本研究では、映画という古くからある娯楽スタイルに対し、今日あるSNS等の新たなメディアの利用によってこれまでに気づかないでいた映画の魅力をマーケティングすることで、新たな顧客の獲得、顧客育成を目指すことを目的とする。

2.2 ターゲット

映画鑑賞のきっかけを与えるターゲットとして、年に数本、もしくは映画を見ないといった層をメインとする。熱心な映画ファンの観賞数を伸ばすことより、鑑賞数が少ないユーザーの観賞数を増やすことが新規の獲得にも有効であると考えるからだ。

調査

3.方法

3.1 劇場映画の独自性・文献調査

劇場映画の独自性とは何か、また他のエンターテインメントとの違いは何かを視点として、文献調査を行う。

3.2 新たな価値の提案

映画を見ていない層が新たに映画を鑑賞する動機となる施策の提案。

3.3 制作

現行ターゲットにとってより効果的機会は何かを視点に発出メディアの選定及び策定またコンテンツの特徴について検討し、その作成を行う。

4.実施

4.1 現状の映画の概要

4.1.1 映画

「映画とは、本来写真的方法によってフィルム上に記録した画像を光学的方法でスクリーン上に投影するもので、動きのある映像を見せる装置、またはそれによってつくられる作品をいう」。本研究における映画の定義とは、大衆娯楽として定着している「映画劇場」にて公開されたものと規定する。

4.1.2 映画の独自性

本研究を行う上で、他の大衆娯楽との違い、映画の独自性を提示する必要がある。他の娯楽と比較して、映画には実際に映画館に足を運ぶという行為、テレビやパソコンにはない装置による映像・音響表現といった特別性・非日常感があるといえる。

4.1.3 マーケティング

現行映画マーケティングとして行われている広告は、テレビ、屋外広告(駅・バス停・ポスター等)、出版、ラジオ、オンライン(バナー広告・webサイト等)、が挙げられる。2009年には、映画のマーケティングの58%がテレビ広告に費やされた。テレビはオンラインに押され減少はしているものの、2018年には49%と未だにトップである。オンラインの広告は2009年の7%から2018年には15%と倍以上の成長を遂げている(表2)が、まだ割合としては少ない。そのことは逆に見れば、映画の広告は未だオフラインであり、SNSの活用などによるさらなる成長の余地があるといえる。

(表2)

4.2 SNSを活用する意義

前節に示した各メディアの中で注目したいのがSNSである。急成長しているものの未だ低い割合ではあるが、SNSはユーザーとの接点となる「コンタクトポイント」の常態化が可能なメディアであるため、本研究において映画に関心を持つ効果的機会を発信側が与えられる場として最適のものと考える。またとくに本研究のターゲットとする層におけるSNSの影響力は大きくマーケティングに活用する企業も少なくない。各作品単体を取り扱ったアカウントや広告は存在するが、多数の映画作品を取り扱ったものはあまり無い。そこに新たな施策の可能性があるものと考えた。

4.3 映画とSNS

以上より、本研究ではSNSアカウントを利用し、そこから映画と出会う新たな価値観・きっかけを提供することを目指す。発信するコンテンツについては、現状の映画マーケティングの課題や文献調査を分析し、新たな価値を創出し、その価値を伴ったものの作成を目指す。

研究方法

4.4 施策

当初広告表現にも用いられる「スライス・オブ・ライフ」に着目したが、意図が伝わりにくく直接的な効果があまり見込めなかった。そこで個人単位でも行われている映画レビューに着目した。現状の映画レビューに新たな付加価値を与えることで別の切り口から関心を得られるのではないかと考えたからだ。本研究ではSNSの普及に伴い発展したコンテンツであるバーチャルYouTuberのようにキャラクターを主体に立て、レビューを語らせるという方法に着目した。

4.4.1 研究課題

映画レビューを行うにあたり著作権が大きな課題となる。一方、作品を紹介するにあたり、本編内容の紹介は必要不可欠である。その撞着した関係性を、どのように調整すべきか。具体的には、作中のシーンの表現方法である。昨今問題となったファスト映画のように作品を棄損しない表現方法をどのように基準化するか。その指標を見つけ出すことが本研究の最も大きな研究課題である。

4.5 調査

著作権の課題を解決するため、文化庁HPとアンケートを用い調査を行った。まず公式の画像を使用することに関して、公正な利用であり、目的上正当な範囲内であれば、著作権法第32条である引用が適用できる場合があると分かった。引用の際の注意事項として下記がある。

(1)他人の著作物を引用する必然性があること。

(2)かぎ括弧をつけるなど,自分の著作物と引用部分とが区別されていること。

(3)自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること(自分の著作物が主体)。

(4)出所の明示がなされていること。(第48条)

映画レビューの場合、(1)の必然性は満たされる。(2)はコピーライトの記載等で対応できる。(3)はキャラクターとレビューを主とし、従となる引用物の使用を最低限に留めることで満たせる。(4)はコピーライトとリンクの記載で対応できる。これらを厳守することで画像の使用が可能となる。

次に作品の内容に関して、著作権の侵害・ネタバレの判断基準は人により異なるため、アンケートを用い基準を探った。

アンケートでは、あらすじと詳細な内容という2つの観点でネタバレと感じないものを選んでもらった。結果として序盤のあらすじは8割の人がネタバレと感じなかったが、中盤のあらすじで4割と減り、詳細な内容では序盤でも3割しか選ばれなかった。また走れメロスの要約を読み、起承転結どこからネタバレと感じるかの質問では承以降、転以降共に3割の人が選択していたため、過半数が転以降の内容をネタバレと感じることが分かった。以上から、ネタバレの無い映画レビューを行う際には、序盤のあらすじと一部中盤以降に起こる出来事を示唆する程度が基準となると考えられる。ファスト映画が法律に違反していた点として、「相当な量の映像や文字を投稿し、ほぼすべてのストーリーが明らかにされている点、動画の構成上、ほぼすべてにおいて無断で映像や静止画が使用されている点」(5)があると言われている。調査結果を守ることでファスト映画のような違反にはならないと考える。

5. 制作

以上の点を守り、コンテンツの主となるキャラクターと映画レビューを制作する。

5.1 キャラクター

制作にあたり、映画を中心としたマインドマップから映写機、フィルム、ポップコーン、暗いといったキーワードを挙げ、キャラクターを制作した。

5.2 レビュー

キャラクターを利用し、著作権法第32条に基づき公式が公開してるポスターをコピーライトを明記した上で無加工で配置しレビューのサムネイルを制作した。またレビューに必要となるあらすじなどにもキャラクターを活用し、自身の制作が主となるよう心掛けた。

まとめ

6. 考察

アンケートから、ファスト映画が見られた動機として無料で手軽という要因が大きく、結末が分かるかはあまり重視されていなかった。また結末・ほとんどの内容を知ってしまったため本編を見ることに繋がらないという意見から、SNSを利用し、無料で手軽に見ることができ、結末に言及しないレビューであれば、映画の関心を引き、実際に観賞する機会を与えられるものと考えた。今後キャラクターをより個性的にすることやサムネイルの魅力を向上させることで映画以外の切り口からも関心を得られ、新たな顧客の獲得に繋がるのではないかと考察する。

参考文献

参考文献

  1. 表1「興行場営業(映画館)の実態と経営改善の方策」(厚生労働省)

(https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000501322.pdf ) 2021年7月23日に利用

  1. 「映画」登川直樹『日本大百科全書』小学館 1984年初版頒布

(https://kotobank.jp/word/%E6%98%A0%E7%94%BB-35807 )

  1. 表2「How are movie advertising budghets spent?」『Stephen Follows』

(https://zoorel.elephantstone.net/archive/1985/ )

  1. 著作物が自由に使える場合(文化庁)

( https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/gaiyo/chosakubutsu_jiyu.html )

  1. 「ファスト映画」投稿急増 映画産業界に危機感 法的措置も(NHK)

( https://web.archive.org/web/20210623071523/https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210620/k10013094761000.html )

6.画像引用:キャンディマン – Universal Pictures Japan

( https://www.universalpictures.jp/micro/candyman )

7. 画像引用:映画『パーフェクト・ケア』公式

( https://twitter.com/perfectcare_JP/media )

研究を終えて

本研究を終えて、改めて著作権の扱いの難しさを感じた。インターネットの普及により、人は簡単に他者の著作物に触れることができ、映画といった著作物の内容を公開することができてしまう。厳密にいうと著作権違反だが黙認されているものも多い。黙認していることによってコンテンツの宣伝になる場合もある。この折り合いをつけることは非常に難しい。漫画村やファスト映画のような悪意ある著作権違反を見ることのない、節度を守った著作権との触れ方を改めて周知していくべきだと感じる。

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