半透明人間
半透明の概念の造形化
小野遥菜
中田研究室
2021 年度卒業
本制作では、半透明の概念の造形化を目的とし、制作を行なった。『半透明』に焦点を当て、事象を理解することで造形化を実現させたいと考えた。制作物は、塩ビ板とスチレンボードを使用してキューブを作り、人間のようなシルエットになるように制作した。 作品を見た方には、自分自身の解釈が物事の意味に影響を与えていることを伝えられる作品制作を試みた。

はじめに

『半透明』を取り上げた背景として、これまでの研究室での活動がある。これまでの3・4学年の研究室課題、卒業研究の前期作品を全て半透明な素材を使用し、作品を制作した。使用した素材はトレーシングペーパー、ビニール袋、アクリル樹脂である。これは、それぞれのテーマに自分がふさわしいと判断したため半透明な素材を使用した。しかし共通して選ぶことから、より半透明に対して理解を深めたいと思い、テーマに取り上げた。
本制作は、『半透明』の概念を捉え、造形化することを目的とする。これまでの作品で素材として使用してきた『半透明』に焦点を当て、事象を理解することで造形化を実現させたいと考えた。概念を捉えるということは、物事を抽象的かつ普遍的に捉えた性質のことであるため、半透明に対して自分なりの解釈を含め、条件を決めて制作をしたい。
そして観者には、半透明の概念に触れ、個人の解釈が物事の意味に影響を与えていることを伝える作品制作をしたい。

調査

制作に先立ち、半透明に対する印象調査をした。調査内容は、半透明に対して抱く印象と、透明度による認識の違いの2つである。今回は無差別に47人に調査を行った。

まず、半透明に対する印象は、「綺麗」が8人、「透き通っている」が5人、「濁っている、ぼやけている」が4人、少数意見として「神秘的、背景が透けて見える」などの意見があった。

次は、透明度による認識の違いである。本調査では、画像の上に透明度を5段階に分けたフィルターをかけ、その中で半透明だと感じた部分を選択するという調査を行った。透明度は、Aが90%、Bが70%、Cが50%、Dが30%、Eが10%で、複数回答を可とした。調査結果は以下の通りである。

以上の結果から、半透明だと感じる度合いは個人差が大きいことが判明した。透明度が90%のAで半透明だと感じる人もいれば、透明度が10%のEで半透明だと感じる人もいるころが判った。

半透明に対する印象調査を踏まえて、なぜ人間は様々な解釈をするのか調査した。まず人間は何かの出来事を見た瞬間、記憶を辿り、多かった記憶がその人の捉え方に連結する。つまり、数々の記憶が多様な捉え方を生むことが分かった。

そして記憶の中でも視覚的な記憶にアイコニックメモリーがある。アイコニックメモリーが積み重なる(リハーサルされる)ことで長期的な記憶に移行するようになる。この長期的な記憶が個人の解釈の差を生んでいるのであれば、アイコニックメモリーもその要因ともいえる。

半透明に対する印象調査を踏まえて、半透明の概念を調査した。まず半透明の定義は、「透明の度合いの少ないこと。そのものの向こうにある物体の、形ははっきり見えないが、その色彩・明暗などは見える程度であること。」である。

また、物体が半透明に見えるのは、光が入射してあらゆる方向に散らばって出てくる拡散透過をしているからである。正透過した場合、物体は透明に見えるため、物体を半透明に見せる方法は多種多様である。例えば、ガラスの表面をサンドブラストさせたり、細かい砂の吹き付けをするという方法だ。このような方法で表面に凸凹を無数につけ、光を拡散透過させることで半透明に見える。この他のにも、自然光と人工光の両方を引き付けて透過する繊維ストランドを配合して半透明に見せるという方法もある。

半透明に対する印象調査と概念の調査を踏まえて、物体が半透明であるための条件は主に2点あると考察した。それは、「物体の向こうにある物体の形がはっきり見えないこと」、「光が拡散透過していること」である。

まず「物体の向こうにある物体の形がはっきり見えないこと」は半透明の定義から抜粋した。また、半透明の印象調査でも背景が透けて見えるという意見もあったため、この条件は必須であるといえる。次に、「光が拡散透過していること」は、なぜ半透明に見えるかの調査から考察した。これは1つ目の条件を満たすための必須条件であり、他の物体にはない半透明の大きな特徴であるからだ。

研究方法

半透明であるための条件を満たすために、キューブを制作した。大きさは40mm、50mm、60mm、100mmの立方体で、素材はスチレンボードと塩ビ板を使用している。一面だけを塩ビ板にすることで、塩ビ板同士の重なりが生まれることを目的とした。

塩ビ板同士の重なりを生むためである。また、30mm以下のキューブは小さくて塩ビ板を通して背景がそれほど見えなかった。そのため、半透明の条件である「物体の向こうにある物体の形がはっきり見えないこと」という条件にふさわしくないと判断し、40mm以上の立方体を使用することとした。重なりを生むためにも10mmずつ大きいサイズのキューブになるようにした。

そして本制作では、キューブを500個作り、人間のシルエットになるように制作した。そして、一方向から塩ビ板が見えるように積み重ねた。これは、塩ビ板同士の重なりが生まれ、背景がはっきり見えなくなるようにするためである。作品の中で、塩ビ板同士の重なりは少ない部分と多い部分ができるようにした。

まとめ

本制作で『半透明』に焦点を当て、造形化することによって、個人の解釈も含めて半透明性を生んでいることを表現することができた。本制作を見た人の中でも、キューブ同士の重なりが少ない部分で半透明だと感じる人もいれば、重なりが多い部分で半透明だと感じる人もいる。半透明であるための2つの条件に加えて、このような個人の解釈が重なることで半透明であるといえるのではないかと考察する。そのため観者には、制作の目的でも述べたように、半透明の概念に触れ、個人の解釈が物事の意味に影響を与えていることを伝える作品制作ができた。

参考文献

研究を終えて

本制作を終えて、『半透明』の表現は新たな可能性があると推測できる。今回はスチレンボードと塩ビ板を使用し、それらが重なることで半透明の条件を満たし、概念を造形化することを目的とした。しかし、制作実験で使用したラップなどの他の透明な素材を使用すれば、また違った光の反射をして半透明に対する見え方も変化していくのではないかと考える。

以上のように、半透明の表現方法は無限にあり、様々な手法で表現することでより見る人の半透明に対する認識も変わっていくのではないかと考えた。

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