市街化調整区域への防災集団移転促進事業活用地区の分析
三宅将希
小地沢研究室
2021 年度卒業
2011 年に発生した東日本大震災における大津波は沿岸部に甚大な被害をもたらした。その復興のために多くの地区で防災集団移転促進事業が活用された。その際に、都市化を抑制すべきとされる市街化調整区域への移転をした地区がある。震災から10年を経過した現在、区域区分の見直しで市街化区域への編入された地区と市街化調整区域のままの地区に二分化している。本研究はそれらの要因を明らかにするために行ったものである。

はじめに

2011 年に発生した東日本大震災における大津波は太平洋沿岸部に甚大な被害をもたらした。その復興のために多くの地区で防災集団移転促進事業(以下、防集)によって、高台移転が実現された。その際には、低コストで多数の住宅を提供するために都市化を抑制すべきとされる市街化調整区域への移転をした地区がある。東日本大震災から10年を経過した現在では、市街化調整区域へ移転した地区においては、区域区分の見直しによって市街化区域への編入がなされた地区と市街化調整区域のままの地区に二分化している。そこで、本研究ではそれらの要因を明らかにするとともに、市街化調整区域へ集団移転をする際に活用された地区計画等を活用した自治体の狙いを明らかにすることを目的とする。

調査

研究方法

2.1 研究対象
本研究では、東日本大震災において防集を活用した岩手県、宮城県、福島県の3県の293地区のうち、防集を活用して市街化調整区域に集団移転をした37地区(宮城36地区、福島1地区)を対象とする。

2.2 研究方法
国土交通省のデータから防集を活用した地区における開発面積・民間宅地数・災害公営住宅数・移転者数を抽出する。次に、自治体が公表する東日本大震災の復興整備計画に記載のある開発許可及び農地法許可の書類である様式10及び様式8から当時の集団移転先の区域区分や位置を整理するとともに市街化調整区域へ集団移転を行った地区を抽出する。さらに、抽出した地区の都市計画の状況を調査し、各地区の地区計画及び被災地復興土地区画整理事業等の制度活用の有無・区域区分・周辺の住居系用途地域との隣接の有無を明らかにする。また、それらの調査に加え、対象地区の都市計画決定の見直しをした要因や時期及び地区計画等を活用した狙い等について各自治体にヒアリングを行う。

以上により、市街化調整区域への集団移転をした地区の規模や制度利用の特徴や傾向を整理する。

2.3 調査結果
2.3.1 市街化区域への編入が行われた地区の分析
住居系の用途地域に隣接している地区については菖蒲田浜中田地区(七ヶ浜町)を除いて市街化区域編入の措置が取られていた。しかし、野蒜ヶ丘地区(東松島市)については近隣の住居系の用途地域と隣接していないのにも関わらず市街化区域に編入されていた。また、被災地復興土地区画整理事業を活用した地区については、8地区全てにおいて市街化区域への編入の措置が取られていた。対象地区の市街化区域への編入については、2016年から2021年の期間で行われていた。これらの結果より、市街化区域編入の措置が取られていた13地区のうち12地区が住居系用途地域と隣接しているため、市街化区域への編入には住居系の用途地域との隣接していることが重要な要素となると考えられる。また、住居系用途地域と隣接していない野蒜ヶ丘地区が市街化区域に編入されていたが、その要因は、当該地区の開発が防集のみで14.33haで公共施設等の開発面積と合算すると38.30haと規模が大きな開発であったためだと考えられる。 そのため、市街化区域編入には集団移転先の開発規模も重要な要素となると考えられる。市街化区域への編入時期について各自治体にヒアリングを行ったところ、仙台市と岩沼市では防集の計画段階で市街化区域への編入を予定するとともにその時期は直近の区域区分の見直しのタイミングとすることが決められていた。他の自治体の地区では、住民の定着や住宅再建が完了した際に市街化区域へ編入する予定であったという回答を得た。そのため、対象地区ではあらかじめ市街化区域への編入は予定されていたが、編入の時期の決定基準については自治体ごとに違いが生じていたことが明らかになった。

2.3.2 対象地区における地区計画等の活用状況
市街化区域に編入された地区において旭が丘地区(女川町)を除いて地区計画が設定されていたことが明らかになった。また、七ヶ浜町の全ての対象地区では、地区計画による建築制限ではなく、住民が主体となって定める建築協定によって建築行為の基準を示していた。女川町では地区計画には基づかない独自の地区整備計画を定め、建築行為の基準を定めるとともに、開発許可の申請の際に建築物の用途を確認していたことが明らかになった。

そして、地区計画等を活用した自治体に対してこれらを活用した狙いについてヒアリングを行った結果を以下に示す。

仙台市・市街化調整区域における建築制限(建蔽率60%・容積率100%)では低層の住宅地としての環境が確保できない恐れがあったため。
名取市・将来的な市街化区域編入を見据えて、地区計画を活用することによって建築行為を可能とさせるため。
岩沼市・良好な居住環境の形成及び維持並びに適正な都市機能の確保とともに、周辺農地及び近隣市街地との健全な調和を図るため。
石巻市・市街化区域編入に先立って、周辺環境と調和した良好な低層住宅地の形成を誘導し、これを維持保全するため。
東松島市・将来、市街化区域に編入した際に設定される用途地域の内容において、既存不適格にならないようにするため。
七ヶ浜町(建築協定)・移転者の建築行為を行いやすくするため。

以上によると、名取市、石巻市、東松島市の3の自治体については、市街化区域への編入を見据えて地区計画を活用していたことが分かった。また、仙台市については、市街化調整区域の建築制限に対して更なる制限が必要ということで地区計画が活用されたため、他の自治体とは異なる狙いで地区計画が定められたことが明らかになった。これらの結果によると、市街化調整区域へ移転を行った地区において、地区計画等は建築行為の基準を示すことによって、移転者の建築行為を行いやすくするとともに、市街化区域への編入の準備として活用されていることが明らかになった。そして、建築行為の基準を示す手段として、地区計画以外にも建築協定や独自の地区整備計画の策定もあり、地区の状況に合わせた制度を活用していく必要がある。

まとめ

本研究では市街化調整区域への集団移転をした地区を対象に調査を行った。結果として以下のことが分かった。

1点目は、市街化調整区域への集団移転をした地区において市街化区域編入をする条件として、住居系用途地域と隣接していることや移転先の開発規模が大きいこと、被災市街地復興土地区画整理事業を活用していることが重要な要素となることである。

2点目は、市街化調整区域への集団移転をした地区における建築物の用途等の指針を示すための手段は地区計画だけではなく、建築協定や自治体が独自に定める地区整備計画があり、それらは移転地の無秩序な開発を防止するとともに市街化区域への編入の準備のための有効な手段となることである。

参考文献

村山広典,松川寿也,中出文平,樋口秀:市街化調整区域地区計画と上位計画の整合性と運用課題に関する研究,都市計画論文集,vol.53,No3,pp.1102-1108,2018

研究を終えて

本研究を進めるに当たって東日本大震災から10年が経過した現在でも、被災地では震災の爪痕が大きく残っていることが印象的でした。そして、本研究で明らかになったことが、今後想定される激甚災害等の復興に少しでも役に立つ情報であって欲しいと思います。

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