都道府県章の色の認識と緑色の印象評価
―宮城県と栃木県を事例に―
小野永莉子
小地沢研究室
2021 年度卒業
人が地域に抱くイメージと都道府県章に対して研究を行った。アンケートではCMYK値を均等に動かした選択肢から色を選んでもらったが、分析の結果、宮城県民は、緑色のCMYKのMの値が大きくなるほど「暗い」「好き」だと感じ、Kの値が小さくなるほど県章の認知度があがる、という傾向があることが明らかになった。

はじめに

日本の47都道府県には、それぞれの地域を象徴する都道府県章(以下、県章)が存在する。都道府県名にある文字を図案化したものや、地形を簡略化したデザインのものなど、地域の特徴や理念、風土、歴史や文化を表現している。しかし、県章に関する研究は非常に少なく、県章と地域に住む人々の関係性や認識の傾向に関する調査も行われていない。行政によって定められたシンボルがどのように地域住民に認識されているのか明らかにすることで、新たな視点の地域性を発見できる可能性がある。
そこで本研究では、地域のイメージカラーをアンケートで問い、その結果から、県章の認知度との相関や選んだ色の印象を分析し、緑色の印象に地域差があるのか、明らかにすることを目指す。

調査

【対象地域】
47都道府県の中で、県章が緑色系統であり人口密度の比率が近しい宮城県と栃木県を研究対象として選定した。

宮城県章の色は「JIS 色名帳「こい青みの緑」色相10G 明度3 彩度8 」1)と定められており、「松島を象徴する深緑地」2)とされている。栃木県章の色は県旗の色として「マンセル色票系Yellow green(Spring green)黄緑基準 7.5GY 6.5/11.0」3)と定められている。なお、宮城県民を対象とする調査では、仙台市章についても問うが、仙台市章に色の規定はない。

調査に際し、3つの仮説を立てた。
栃木県は県民の日に際して様々な取り組みを行っているが、宮城県に県民の日はない。県章を目にする場面に差が生まれ、栃木県の方が県章の認知度は高くなると予想した。
SD法で色に対する印象を測ることにしたが、一般的に緑色は自然物を連想させ、実際の調査4でも緑色に対する印象に自然物が挙げられている。そのため、緑色を連想した理由には多くの人が「自然」と回答すると予測した。
仙台市章の色としてイメージに近いものはどれかを問う設問を設けたが、「杜の都」という言葉のイメージから、緑色の仙台市章に回答が偏ると予想した。

【調査方法】
下記の要領で調査を実施した。
調査期間 2021年11月13日~11月27日の14日間
調査対象 15歳以上の宮城県民、栃木県民
調査方法  Googleフォームでアンケートを作成し、Facebook広告で掲載
回答数  宮城県173票、栃木県68票
調査項目 Table 1の通り

まず、CMYK24色相環と5つの無彩色の計29色を示し、その土地に対して思い描いた色を1色選択させる。このうち、No.8~10のいずれかを選択した場合、「緑色を選択した」ものとする。この選択者に対し、各県章の色をCMYKで近似色として表し、それらを中心に均等にCMYK値を動かした12色の緑色を示す。ここには、宮城県章近似色⑪(C75M50Y75K25)、栃木県章近似色⑥(C75M25Y100K0)、ならびにNo.8~10の近似色が組み込まれているが、調査画面では近似色であることや各色のCMYK値は記載しない。

次に、その色を連想した理由や、色の印象を問う。理由の4項目は都道府県の象徴要素に関する研究5を参考にして選定した。また印象の10項目は、 色彩分野で用いられる形容詞対使用頻度上位10対6を抽出し、使用することとした。

宮城県民に対しては、8枚の仙台市章を示し、回答者のイメージする仙台市章を選択させた。1と2の黒色は仙台市章に色の規定がないことから、3と4の紫色は祝典の際に多く用いられるため、5~8の緑色は仙台市長定例会見の後ろのボードのから抽出し、選択肢とした。

研究方法

調査・分析結果
1.県章の認知度————————————————————————–

①宮城県と栃木県で県章の認知度に差はほとんどみられなかった。そこで、計232票を分析対象とし、独立性の検定を行ったところ、地域のイメージカラーを緑色と選択したか否かは県章の認知度とある程度関係があり、宮城県及び栃木県のイメージカラーを緑色だとイメージした人ほど、県章の認知度が高い傾向にあることが分かった。

②仙台市章は宮城県民のうち59%に認知されており、5の緑色、続いて3と4の紫色が人々のイメージに近しいものだということが回答票数から明らかになった。

③次に、県章の認知に何が影響しているのかをロジスティック回帰分析を用いて明らかにする。目的変数には、県章の認知度をダミー変数で採用した。説明変数としては、居住地、居住歴、連想理由(名産、建築物、自然、それ以外)、年齢、住んでいる県のことは好きか、CMYK値のうち固定値のCを除くMYKの値を検討した。

有意と示されたのは、居住歴とCMYK値のK、色を連想した理由「それ以外」の3つだった。しかし、自由記述で「それ以外」と選んだ理由を県章と回答しているものがいくつか存在したため、アンケートのタイトルを「県章のイメージに関するアンケート」としたことによるミスリードの可能性がある。この分析により、居住歴が長いほど県章の認知度が高くなること、その土地のイメージカラーを明るい緑色であるととらえているほど、県章の認知度が高いということが明らかになった。

仙台市章の認知度についても宮城県168票を分析対象として同様の分析を行ったところ、有意であると判定が出たのは、色を連想した理由の「それ以外」と、CMYK値のMとKだった。

2.選んだ色の印象————————————————————————–

宮城県民が選んだ緑色の印象を把握するため、SD法の形容詞10対に因子分析を行った。この際、最尤法を用い、因子の回転にはプロマックス回転を採用し、因子負荷量0.4で因子分析を行ったところ、「暖かい-冷たい」「静かな-うるさい」「重い-軽い」の3項目は共通性が低いと判断されたため、この項目を外した7項目について同様の因子分析を行った。目的変数はCMYK値、説明変数は形容詞7項目である。因子分析の結果、7項目の形容詞対が3因子に分かれ、既往研究6)などに基づき、第1因子を「評価性因子」、第2因子を「活動性因子」、第3因子を「力量性因子」とした。

目的変数を緑色のCMYK値、説明変数を形容詞対7項目として、その土地のイメージカラーの印象に何が影響しているのかを明らかにするために、緑色を選択した宮城120票を分析対象に重回帰分析を行った。
分析の結果、Mで「明るい-暗い」「好きな-嫌いな」の二項目が有意だと示された。Y及びKには有意なものはなかった。
これらの分析結果から、宮城県民の緑色のとらえ方には下記の傾向があることが明らかになった。

M:値が小さくなるほど「明るい」、大きくなるほど「好き」と感じる。
Y:関わりはない。
K:値が小さくなるほど県章を認知している。

【制作物】————————————————————————–
アンケートの仙台市章に対する項目では、緑色を選択する回答が多く見られた。しかし、図が緑色の仙台市章と、地が緑色で白抜きの仙台市章、それぞれがどのような要因で選ばれたかについては明らかにすることが出来なかった。

そこで、県章の近似色を中心にCMYKのMとYを均等に動かした5色を用いて、図と地の色が反転した図案を作成し、卒業制作展に来場した方に投票してもらうこととする。
「杜の都」というイメージを確立させたシンボルである仙台の街路樹に関する資料をもとに、仙台市の復興に用いられた樹種の葉を使用した図案を作成し、研究の課程でCMYK値を設定したため、アクリル絵の具を用いて混色させ近しい色を作り彩色したものを展示した。それらに対してどれがイメージに近いものなのか来場者に投票してもらうことで、これまでの研究を踏まえてさらにイメージに関して調査を行う。

まとめ

県章の認知度に影響するのは居住歴とKの値で、地域に対するイメージが鮮やかな色であるほど県章の認知度が高いということがわかった。宮城県章の色は松島を象徴する「こい青みの緑」と決められ、Mの値が大きくなるほど青みと深みが増していくが、宮城県民は明るい緑を選択する傾向にあったため、県章の色と県民の認識には差があるといえる。
本研究では地域を色の観点から人々の抱くイメージの傾向やとらえ方を明らかにした。今回の研究結果が、地域のイメージや、今後の都道府県章に関する調査の役に立つことを願う。

参考文献

1)宮城県,宮城縣公報,昭和41年5月17日付宮城県告示第5359号
2)宮城県広報協会,みやぎ,自1巻1号至1巻6号,昭和41年
3)栃木県,栃木県公報,昭和37年12月1日付栃木県告示第966号
4)相馬一郎:色彩の心理効果,色材料協会誌,第58巻,第9号,pp.548-557,1985
5)廣田篤彦,坪井善道:都道府県の認知量と象徴要素に関する研究,日本建築学会技術報告集,第16巻,第33号,pp717-720,2010
6)井上正明,小林利宣:日本におけるSD法による研究分野とその形容詞対尺度構成の概観,教育心理学研究,第33巻,第3号,1985

研究を終えて

都道府県章は行政が定めたシンボルだが、日常で強く意識する機会は少ない。実際、県民は地域に対してどのようなイメージを持っているのだろう。というところから、地域イメージと県章に関する研究を行った。制作ではCMYKに近しい4色を混色させて色を作ったが、乾くと色が変わるため色の調節にとても時間がかかった。

メニュー