防災×土産
「東北のとっておきみやげ」の提案
伊藤佑奈
日原研究室
2021 年度卒業
新型コロナウイルスの感染拡大によって社会は大きく変化し、観光物産や土産物の需要は大幅に下落した。本研究では、インバウンドに頼らずに国内での需要を増加させることを目指し、土産物への新たな付加価値―防災×土産―を提案する。災害大国日本においては、予期せぬ事態への備えは今や生活の一部といってよい。土産物として災害時にも活用できる、東北の食材を用いた長期保存可能な土産「東北のとっておきみやげ」を提案する。

はじめに

2020年は新型コロナウイルスの感染拡大によって社会が大きく変化した年であった。人々の移動の制限や外出自粛によって旅行や出張の機会が激減し、レジャー施設、ホテルや旅館、交通機関等は大きな打撃を受けた。その影響によって観光物産、土産物需要もまた大幅に下落した。

菓子業界を例にしてみると、商品ジャンルや業務形態などによって状況は異なるものの、2020年の生産数量、生産金額及び小売金額は、全日本菓子協会が取りまとめている菓子統計が始まった1960年(昭和35年)以降、最大の下げ幅を記録した。

また2019年は3188万人と過去最高であった訪日外国人数は、2020年には前年比87.1%減の412万人となり、観光業やサービス産業へのインバウンド効果は大幅に落ち込みをしめした。2019年の訪日外国人による菓子の買物消費金額が1705億円であることから、菓子・土産についても大幅な需要低下をきたしたことが見受けられる。これらのことから、インバウンドは地域活性化において重要な要素となっていたことが推察できる。さらに土産物事業者に関しては、旅行業界への「Go Toトラベル キャンペーン」のような直接的な支援策がなかったことから、とくに対策が急務である。

本研究では、地域活性化に寄与する新しい土産物の形を探ることを目的とする。インバウンドに頼らずに国内での土産物の需要を増加させることを目指した、土産物への新たな付加価値を見出すことをねらいとする。

この新たな付加価値として着目したのが「防災と土産」である。災害大国日本においては、防災を意識することが日常となっている。災害により、物流機能や電気・水道・ガスなどのライフラインが停止した場合など、予期せぬ事態への備えは今や生活の一部といってよい。そこで、日常的な防災意識と地域活性化のために観光物産、とくに土産物とを創発的に融合させることを思い立った。つまり「土産物として災害時にも活用できる日常食品」である。本研究では、そのビジネスモデル作成と提案を行う。

調査

避難所での食事は、アルファ化米やパン、カップ麺など炭水化物が中心で、野菜などがほとんどない場合もある。支援物資についても野菜・肉・魚などの生鮮食品が届くことが少ないために、ビタミンやミネラル、食物繊維が不足しやすくなっている。家庭での備蓄においても、栄養面に配慮した食品を用意しておく必要がある。

家庭用の備蓄方法としては、普段から少し多めに食材、加工品を買っておき、使った分だけ新しく買い足していくローリングストック法がある。この方法のメリットは、普段使いをして買い足していくことによって定期的に賞味期限の見直しができ、食品の廃棄を防ぐことができる点や、日常的に食べることでいざというときにも普段の食事に近いものが食べられる点、いろいろな食品を食べることで自分や家族の好みのものが備蓄できる点である。日常生活で消費しながら備蓄を行うことで、万が一の際にも焦らず、ストレスも軽減できることが期待される。

研究方法

提案・制作物

本研究では、東北の食材を用いた長期保存可能な土産「東北のとっておきみやげ」を提案する。

アルファ化米(水またはお湯を注ぐだけで食べられるご飯)、東北の食材を使用したおかず・汁物の缶詰など土産を想定してパッケージデザインの制作を行った。これらを贈ることで、いざというときのための備えを増やし、贈る側・贈られた側の両方の防災意識を向上させることをねらいとする。「とっておき」という言葉には、❶非常食=備蓄(とっておく):いざというときに活用できる❷地域のとっておきの(魅力ある)食べ物:魅力発信の切り札という2つの意味を持たせている。

東北6県にそれぞれ色を割り当てシリーズ展開することを想定している。青森県はりんごのイメージから円熟した赤、岩手県は奥州平泉や紫根染から本紫(穏やかな青紫)、宮城県は杜や松島から松葉色(控えめな黄みの緑)、秋田県はなまはげや秋田犬のイメージから鮮やかな橙、山形県は紅花(鮮やかな赤みの黄)、福島県は「ふくしまのいろ」よりいなわしろこ(鮮やかな青)を選択した。

施策の検証

1.土産店3店舗の販売員・社員の方5名に施策についてのヒアリング

コンセプトと既存の非常食と異なるパッケージデザインについて好反応をいただき、さらに販売者目線での生の意見をいただいた。

商品内容については大きく2点挙げられ、1点目は人によってはすぐに食べたいと考える「土産」と、すぐに食べずとっておく「備蓄」というふたつの要素に対し、折り合いをつける必要性があるという意見である。食べるタイミングは人それぞれだが、まず土産としてすぐに食べてみたいと感じさせることに加え、備蓄もできる食品であることを認知してもらい、おいしさを知ってリピート購入してもらう工夫が必要であると感じた。2点目は商品の形態についてで、土産業界において本当に売れるものは、取り扱いが比較的簡単な商品であることなどから、土産によってスペースを取らせないことが重要であるという意見である。コンパクトさを重視した包装形態や、相手よってカスタマイズできる仕様にすることで土産としての満足度が上がると感じた。販売方法に関しても、土産として贈る前に、納得して購入してもらう工夫が不可欠であると感じた。

2.「とっておきみやげ」を土産として贈りたいか、20代~40代の男女12名にアンケートを実施

「その土地の名産であることに加え備蓄にもなるという点が、人に渡す時にこれをお土産に選んだ理由として話しやすいから」「バリエーションが豊富なので、大人数のグループへのお土産として共有するのが楽しそうだと思ったから」などの理由ですべての人が贈りたいと回答した。また、ほとんどが自分用にも購入したいと答え、備蓄用としてだけでなく、キャンプ用やプチ贅沢用としての需要があることも分かった。一方で自分用には、持ち帰るときの重さを懸念しレトルト食品は購入しないという声もあり、購入のきっかけのひとつとして持ち運びのしやすさがあることが分かった。

まとめ

検証から、「東北のとっておきみやげ」は長期保存が可能で、災害時手軽に食べることができる食品であることから、新たな東北の土産として様々なニーズに対応できると考えられる。また、土産菓子店では実際に、震災後にプチ贅沢の需要が高まり県内在住者による売上が増えたというお話を伺い、とっておきというコンセプトが県外への贈り物だけとしてではなく東北の地域内での需要にもつながるのではないかと感じた。一方で、土産の包装形態や販売価格について検討の余地があり、その点を改善することでより手に取りやすく、リピート購入したいと感じてもらえる土産になると考えた。

参考文献

  • 須藤紀子・笠岡(坪山)宣代・下浦佳之(2020)ストーリーでわかる災害時の食支援Q&A-基礎から給食施設・被災地の対応まで-.建帛社.
  • 島本美由紀(2020)もしもに備える!おうち備蓄と防災のアイデア帖. 株式会社パイ インターナショナル
  • 廣内智子・島田郁子・荻沼一男 (2017) 「発災後の避震災の食事画像分析から-」『日本災害食学会誌4 NO.2 』pp.79-93. 日本災害食学会
  • 全日本菓子協会(2021)令和 2年 菓子統計(http://anka-kashi.com/images/statistics/r02.pdf
  • 農林水産省(2019)災害時に備えた食品ストックガイド(https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/foodstock/attach/pdf/guidebook-3.pdf)
  • 福島県印刷工業組合(2018)福島県の風土や文化を伝える「ふくしまのいろ」を選定(2022年1月3日閲覧) (https://www.f-pia.com/traditional_colors/)

研究を終えて

ヒアリングなどから、家庭での意識的な備蓄はまだまだなされていないと感じた。本研究の制作を通じて、ローリングストックのタイミングでのリピート購入・ふるさと納税の返礼品としての活用など、国内での土産物の需要を増加させ、個人の災害への備えを充実させる、新たな可能性を見出すことができた。これを実現させるためには、まず土産として手に取ってもらい、さらに備蓄可能な食品であることを認知してもらうことが不可欠である。検証から、より多くのニーズに沿った土産にするために、形態や販売方法、価格についてさらなる検討の余地があることを実感した。また、土産店の方にお話を伺うなかで、東北・日本全体のとっておきが詰まったたくさんの土産は、私たちがふれてきた様々なデザインによって、もっと魅力的なものにしていくことができると改めて感じることができた。

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