脳波を使った睡眠アラーム
佐竹佑介
須栗研究室
2021 年度卒業
日本は、世界的に見ると睡眠に対する満足度が低い。原因として、睡眠前に電子機器を使用していることなどが挙げられる。この問題を改善するために、無意識に入眠してしまう「寝落ち」を防ぎ、睡眠の質を改善する研究を行った。睡眠状態における脳波を分析し、脳波によって入眠したことを検知する。睡眠を検知したら、ユーザーに音と振動を伝えることで起床させる。このようにして、「寝落ち」を防ぎ、睡眠の質の改善を図った。

はじめに

睡眠に影響を及ぼす因子は主に2分類ある(北堂, 2005)。一つは照明、温熱、寝具などが含まれる寝具環境に関する因子と疲労、病気、ストレスなどが含まれる生体に関する因子である。前者の具体例として、光の照度及び色温度が睡眠に影響する。照度が高いとメラト ニンという睡眠ホルモンの分泌が抑制される。又、青白い光のような色温度が高いほど覚醒度が上がる。逆に色温度が低い赤みのある色ほど、気分を落ち着かせる。後者の具体例として、興奮状態と精神沈静化状態による影響がある。テレビゲームをした後の興奮状態では、入眠時間が長く入眠中の安定性に欠ける。自然風景映像を見せた後の精神沈静化状態では、入眠時間が短く入眠後も安定する。睡眠前の行為・状態で睡眠の質が変わってしまうのである。

本研究では、「寝落ち」を防ぐことを目的とする。寝落ちとは、本人の意図的ではなく、何かの行為中に無意識に睡眠に入ることである。寝落ちは寝具環境に関する因子と生体に関する因子の両者を引き起こしてしまう。寝落ちは、寝る準備が整ってない状況であるため、照明、寝具及び騒音などの環境が整っておらず、スマートフォンを見ていた場合は興奮状態で眠りに入ってしまう可能性がある。  寝落ちによる睡眠を防ぐために、脳波を計測し、睡眠に入ったことを検知する。睡眠を検知することでユーザーを起こし、質の良い睡眠へとアプローチをする。寝落ちによる睡眠を防ぐことで、本来寝落ちによって受けるはずであった寝具環境による影響や生体に関する影響を受けずに、質の良い睡眠へと移行できる成果が上がる。

調査

睡眠を検知するにあたり、睡眠時のデータを取得し分析する。睡眠時の脳波を得るために実験を行った。次に実験の手順を示す。

(1)覚醒時に脳波計を装着する。

(2)2時間経過した後、脳波計を外す。

(3)脳波計を装着し、入眠する。

(4)2時間後に起床し、脳波計を外す。

(5)(1)から(4)を5回繰り返す。

この実験により、覚醒時と睡眠時のそれぞれ5回分の脳波データを得ることができた。取得したデータから、覚醒時、入眠時、睡眠時の脳波を分析した。これらを比較するために分析した脳波はアルファ波とベータ波である。リラックス時に現れるアルファ波の値を集中時に現れるベータ波の値で割り、アルファ波とベータ波との割合を分析した。左記のグラフは覚醒時の脳波、右記の画像は睡眠時の脳波を表す。グラフの縦軸はアルファ波の値をベータ波の値で割った値であり、横軸は秒数を表す。

 

 

 

 

 

分析の結果、睡眠時の脳波に特徴が現れた。入眠から10分が経過したあたりから数値が増加した。90分間増加後の値を保ち、その後減少し、再び増加した。覚醒時のグラフのデータの値が、入眠時の値と同等なことから、睡眠している間のみ、値が増加していることが発見できた。睡眠時に減少している時間があるのは、レム睡眠が影響している。このようにして、脳波を分析することで睡眠を検知することが可能となった。

研究方法

睡眠時の脳波を検知した後、ユーザーを起こすシステムを製作した。脳波計とMacとをBluetoothで接続する。また、MacにはArduinoをシリアル通信で接続する。Macでは脳波系のデータをPythonで処理する。脳波の値をPythonで取得して分析した後、分析結果をArduinoに送り、Arduinoで処理を実行する。脳波計、Mac、Arduinoのシステムの流れを図3に表す。ユーザーを起こす手段は、スピーカーで音を鳴らすこととユーザーが身につけるデバイスを振動させることである。

睡眠検知の実験より、アルファ波をベータ波で割った値が15以上となった場合、睡眠していると判断する。この値を超えると、始めに身につけているデバイスが振動し、30秒後に音によるアラームが鳴る。実際に、脳波計を装着して入眠したところ、睡眠を検知してユーザーを起こすことに成功した。

まとめ

本研究では、人の睡眠の質の低下を防ぐことを目的とする脳波を使った睡眠アラームを提案した。脳波計を装着して睡眠する実験を行った結果、睡眠の検知に成功した。又、睡眠を検知することによって、音と振動を発生させるデバイスを作り、睡眠状態に入ったユーザーを起こすことを可能にした。

今後の展望として、意図的ではない睡眠に焦点を当てた上で、睡眠の脳波を分析したい。本研究では、照明を消す、体を横にするなどといった睡眠の環境と準備が整っている状態で実験を行った。意図的な睡眠とそうではない睡眠とでは、睡眠の環境の影響等で異なる脳波の特徴が現れる可能性がある。そのため、本研究目的の「寝落ち」による睡眠に沿った、意図的ではない睡眠による実験が必要である。

参考文献

PHILIPS(2020)Global Sleep Survey, Wake up call : global sleep satisfaction trends, PHILIPS, 2015年, https://www.philips.co.jp/c-e/smartsleep/campaign/world-sleep-day.html(2021年1月10日閲覧).

西野精治(2021)睡眠偏差値, 睡眠偏差値Biz, 2021年, https://brain-sleep.com/sleep-deviation/(2021年1月10日閲覧).

北堂真子(2005)良質な睡眠のための環境づくり:就寝前

のリラクゼーションと光の活用, バイオメカニズム学会誌, Vol. 29, No. 4, 194-198.

人見健文・池田照央(2014)の右派の基礎知識, 臨床神経生理学, Vol. 42, No. 6, 365-370.

研究を終えて

実験が非常に困難であり何度も断念を考えた。睡眠の実験は2度としたくないと思ったほどで、尚更睡眠の質の大切さを実感する。

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