廃棄野菜を用いたエシカル消費の増進
ー皆で考えたい消費のおわりのはじまりー
非公開
日原研究室
2021 年度卒業
現在、買い物袋持参やパーソナライズ化された商品など生産・消費に対する動きに変化は見られているが、「廃棄」に至るまで問題視している人は少ない。そこで消費者がモノの最後を想像してもらうことが必要であると考えた。こうして生まれたのがhagireである。捨てられる野菜を再利用して作ったエシカルなカレンダーである。本研究では消費者が直接手にすることで廃棄に関する問題意識を持たせることを提案する。

はじめに

現在、消費活動に対する意識が変わってきた。大量生産・大量消費される時代からパーソナライズされた商品やコアな消費者層をターゲットとした商品が増えた。また令和2年7月1日に全国でプラスチック製買い物袋の有料化が行われた。この件で消費者は買い物袋を持参する動きが広まり、現在では常習化している。このように生産・消費に対する動きに変化は見られているが、消費の帰結というべき「廃棄」に至るまで問題視している人は少ない。

市町村でごみの分別の強化を行い、資源ごみの回収を進めている。しかしながら各自治体によっては分別の手法・種類が少ないところもある。例えば同じ東北地方を例に挙げても、宮城県仙台市ではプラスチックごみの回収を家庭ごみとは別に行っているが、青森県八戸市ではプラスチックごみは燃えるごみとして回収している。また日本で最も ごみ分別が細かい徳島県上勝町では45種類に分別する。しかしながら全自治体がこのような取り組みを行うには至っていない。

この問題を解決するには消費者が廃棄に対する意識を持つことが必要であると考えた。廃棄に対する施策だけでなく、使う責任とモノの最後を想像してもらうことが重要となる。

本研究では消費者が直接手にすることで廃棄に関する問題意識を持たせることを提案する。そのために、商品を手にすることでモノの最終地点(消費の帰結点)を考える場を設けること、本来廃棄される予定のモノを使用することで、新たな価値(消費帰結の再考)を生み出す機会づくりをねらいとしている。

 

調査

これまで廃棄に関する問題に注目していたが生産・消費・廃棄といった一連の流れが存在し、廃棄を考える上では消費についても考える必要がある。そのため、推奨されている消費活動とはどういったものなのかを調査する。そして、伝統的な紙の制作物として紙漉きの技術を調査しながら制作に応用できるものを見つける。

消費者が目指すべき消費活動の形態として「エシカル(Ethical)消費」というものがある。エシカルとは倫理的、道徳的を意味する言葉であり、自分・他人・社会・地球環境のとって良いものを選択する消費活動のことを指す。この言葉のはじまりは1989年にイギリスで創刊された「ethical consumer」である。

エシカル消費は国連サミットで採択された持続可能な開発目標のうち、主に「12.つくる責任 つかう責任」の問題と関連している。エシカル消費の例としてフェアトレード商品の購入がある。これは適正な値付けを明確な基準をもとに設定されたことを意味し、商品にはラベルが添付されている。国際フェアトレード認証ラベルは日本でも見かけることができる。フェアトレード商品は原材料の生産や商品の製造を担う労働者の環境を守ることを目的とされ、同様の例として障がい者支援商品や寄付付き商品、エシカル金融なども挙げられる。

 植物の繊維を利用した代表的な制作物として「紙」がある。その起源は紀元前141世紀以前の中国にまでさかのぼる。しかしこの時代の紙は貴族が貴重品を包むための布のような役割を担っていた。後漢時代に蔡倫が書写に適した蔡候紙を開発する。これが現代にも通ずる情報を書き込むことのできる機能を持った紙である。

610年に高句麗の僧によって日本に紙の製造法が伝来する。この伝来には仏教の布教を目的とした意味も持ち、製造された紙は書写材料として用いられた。中国でもそうであったように紙の発達には宗教的な理由も含まれている。当初は書写材料として用いられた紙も和歌や漢文など用いられるようにもなったが、大衆の手に渡るようになったのは江戸時代からになる。そのため紙の貴重性は高く、奈良時代の京都には紙屋院と呼ばれる官立製紙所が設立された。紙屋院で作られた紙は「紙屋紙(かんやがみ)」と呼ばれ、質が高く技術者の地位は非常に高いものとされていた。この時に用いられた紙漉きの技術として流し漉きがある。流し漉きとは簀桁を動かしながら波を作り、紙料液を流し込み、制作する方法である。それ以前までは溜め漉きの手法がとられており、粘性の少ない液体を簀桁ですくい上げ、簀全体に繊維質が行き渡るようにして作り上げる方法である。また一度漉いた紙を原料に解かしてもう一度紙にする漉き返しという技術も誕生した。この技術は以前から用いられていたが、武家や庶民の手にも渡るようになると紙の原料となる素材は重宝され古紙を回収する業者も誕生した。この業者は傘や障子、かわら版など本来は別の用途で使われていた物を集め、新たな紙製品として作り直していた。

研究方法

 植物を利用したものに紙があり、伝統的な紙漉きという技術を用いることで一度バラバラになった繊維をまた一度に集結させることができる。また漉き返しという技術はエシカル消費の考え方にあたる「つかう責任」の消費帰結の再考の機会を設けていたことが分かった。これらのことから手漉きという行為を通じた制作を行い、消費帰結の再考を促す紙製品の制作を行う。

使用した材料は主に楮、粘剤である。これに人参のヘタ、茶の出涸らしを細かくしたものを混ぜ合わせそれぞれ漉いた。玉ねぎの皮は細かくすることが難しかったため図2の様に野菜染として皮を煮詰め染料として使用した。漉いた紙は水に浸しても分解しない強度であったため、乾燥させたのち、染料に直接浸し再度乾燥させた。

楮は細かくするために2種類の方法を試した。一つは水や熱湯でふやかしたのちに手で細かくちぎり、ミキサーにかける方法である。もう一つは細かくした楮と水を凍らせ、ミキサーにかける方法である。後者の方法は個体として削るため細かくすることは可能であったが、氷の中心を細かくすることは難しく、無駄が残る結果となってしまった。そのため時間と手間はかかるが前者の方法を採用することにした。

粘剤の割合も今回の実験の鍵となった。まず少なすぎると漉いた紙を乾燥させるために乗せた布からはがしづらくなる。そして紙も破けやすくなる。実験では水に対して粘剤の割合を増やしていったが、少量多い分には問題なかった。しかし割合が多すぎると粘度も高くなり紙料の中の楮や野菜の繊維をうまくすくい切れなった。

粘剤の量を調整しながら出来上がった紙に柿渋を塗ることで強度を上げた。図1の左は希釈5倍、右は8~10倍の柿渋を塗料として用いている。乾燥後は柿渋特有のにおいもなく、紙自体の耐久性も上がった。

素材となる紙の制作を完了し、付加価値としてカレンダーを提案する。カレンダーのうちアドベントカレンダーというものがある。これは12月1日からクリスマス当日までの24日間をカウントダウンする、期間限定の特別なカレンダーのことで、日付の付いた引き出しや袋の中にオーナメントやプレゼントが含まれている。アドベントとはキリストの降誕を待ち望む期間である。この「降誕」と、消費帰結の「再考」とが重なる意になるものと考えた。

漉いた紙を13㎝×13.5㎝サイズにカットし、トレーシングペーパーにカレンダーを印刷した。これらを和綴じにして綴り、1か月は野菜の漉けた紙を眺めながら過ごすことができる。

野菜の端切れを用いた制作物であったため、同じような意味を持つ「はぎれ」をモチーフとしてデザインを考えた。端切れとは裁ち残りの布切れのことで本来は捨てられるものだがこの端切れを再利用したパッチワークは主流である。布に限定されないよう表記を英字にし、補助的にvegetable scrapsと説明も加えた。ロゴマークはひらがなの「は」を縁取るようにし、にじみを表すようなテクスチャを加えた。

まとめ

 文献調査の結果を反映することを念頭に制作を行った。材料に関して余剰の削減や自然由来の素材にこだわったことで、今一度生産について考える機会となった。とくにカレンダーは日付を確認しながら野菜の存在感を感じることができ、「エシカル」な想いを体験できたものになったと考える。

 今回のテーマの中に消費帰結の再考があった。制作物では消費者が実際に手に取ってもらうことで生活中に感じられるようにした。ステークホルダーとして設定した食料廃棄を問題に抱えている業者として農家や野菜販売の業者が考えられる。今回、廃棄野菜は用いられなかったが、彼らのような業者と協力してノベルティの制作に繋げられるのではないかと考えられる。しかしながら、消費帰結の再考の有無は消費者の意思にゆだねられているため、発芽を促すデザインやアイデアはさらに工夫を施すことができると感じた。

参考文献

□フェアトレードジャパン(https://www.fairtrade-jp.org/)

□平出紙業株式会社(http://www.hiraide-paper.com/)

□栗城正義(2001)ふくしま 和紙の話.歴史春秋社

□小宮英俊(2018)今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい紙の本..日刊工業新聞社

□紙の博物館(2015)和紙の徹底研究(特徴・比較) 和紙のよさを見直そう!(3) (世界遺産になった和紙).新日本出版社

研究を終えて

廃棄野菜から新たな素材を生み出すことに一年弱かけたがなかなか満足のいく作品はできなかった。植物の繊維を取り出すこと一つをとっても時間と手間がかかり、一般に流通している「紙」という存在がいかに偉大なのかということを気づかされた。

今回作成した「hagire」はそういった意味では不完全な作品であったかもしれない。しかしながら、自分自身がエシカル消費について興味を持ち、体験できる貴重なきっかけとなった。

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