私の花空間
大家 有莉加
平岡研究室
2021 年度卒業
私は花が好きだ。では一体、私は花のどこに、なぜ、惹かれてしまうのか。その惹かれる要因を明らかにし、花のもつ表情やリズムの中で、自分が花に対して視覚的に抱く魅力を体験していくことのできる空間の設計を行う。自身が惹かれる花の魅力要素を、言語化・分析した結果を基に、その魅力を空間デザインとして表現することを目的とし、花がもつ形態のバランスや柔らかさを取りいれた「私の花空間」を設計する。

はじめに

きっかけ

私は花が好きだ。昔から花を見ると無意識的に写真を撮ったり、誰かに贈ったり、部屋に飾ったりする習慣がある。では一体、私は花のどこに、なぜ、惹かれてしまうのだろうか。その魅力はどこにあるのか。それを言語化し、自分の中の花の美しさを形にしたいと思ったことが本研究のきっかけである。変わらず惹かれるものの良さを自己回帰的に分析したら、その考え方や出来上がったものを、なにか今後のデザインに活かせるのではないかと考えた。

研究目的

花の魅力の一つである「造形的魅力」について要素を分析していくことで、その惹かれる要因を明らかにし、これを再現した空間「私の花空間」を設計する。自分が花に対して視覚的に抱く魅力を空間デザインとして表現することが本研究の目的である。

調査

研究方法

本研究は、「花の魅力要素」の抽出結果に基づく分析と、それを踏まえた空間設計で構成されており、以下のような流れで行った。

1.花の魅力要素の抽出

実際の花模型製作やスケッチにより、具体的にどの部分に惹かれているのかを要素として抽出する作業を行う。

2.魅力要素の言語化とグループ化

抽出された要素について、なぜ自分はそれらの要素に惹かれるのかを明らかにするため、一つ一つ良さを言語化していく。その中で明らかになった共通点や相違点を基に、要素をグループ化していく。

3.「私の花空間」を考える

分析結果を踏まえ、視覚で捉えた花の魅力を、体験していく空間を設計する。無意識的に惹かれる要素の元となる原体験を再現体験する空間を作ることで、花によってだけ生まれた組み合わせによる、「私の花空間」が完成する。

研究方法

1.花の魅力要素の抽出

(1)花の分類の仕方の決定

今回の研究対象である造形的魅力を検討するに当たり、自分の中で花の魅力は何によって変化するか検討した結果、【花弁の付き方】によっておおよその良さが変化するとわかった。よって分類の仕方は【花弁の付き方】に決定する。

(2)魅力要素の抽出

続いて花弁の付き方を5つのタイプ[多弁タイプ、太陽タイプ、図形タイプ、ラッパタイプ、ランプタイプ]に分けた。この5つのタイプごとに魅力要素の抽出を行っていく。

魅力要素の抽出方法は以下の通りである。

1.構造を紙で3D化したものを作成し、ずらしたり並べ方を変えたりを繰り返す。

2.並べ方・大きさ・量・形において、どのようにすると一番美しいと感じるかを確かめる。

3.直感的にいいと思った部分を抽出し、スケッチする。

その結果、多弁タイプから5個、太陽タイプから7個、図形タイプから6個、ラッパタイプから3個、ランプタイプから4個抽出され、計25個の魅力要素が抽出された。尚、この要素はあくまでも主観的に抽出しており、全て自分が魅力的に感じた要素だけで構成されている。

2.魅力要素の言語化とグループ化

続いて抽出した要素について、自分がなぜその要素を直感的に良いと思ったのか言語化する作業を行った。これを行うことで、私自身が花に対して抱く造形的魅力の特徴・属性をつかむ。

例えば、[要素①:手のひらをかぶせたような形]が魅力要素として抽出された理由として、[頭を撫でられる仕草を思い出し、あたたかい気持ちになる]がある。

 

 

このようにして25個の要素の言語化を行い、一覧表としてまとめた。

ここで、花から抽出された魅力は、自分の原体験が強い影響を与えているとわかった。原体験とは、「人の人格形成や行動の方向づけに、知らず知らずのうちに影響を及ぼしている幼少期の体験」のことで、主に五感を重視した、人や自然と触れ合う直接体験のことである。つまり私は花をみた時、自分がこれまでに経験した原体験に花の造形を重ねており、直感的に惹かれているのである。例えば、[要素①:手のひらをかぶせたような形]の場合、その形から無意識に[頭を撫でられた]という原経験を思い出すことで、私はあたたかい気持ちになり、知らずとその形に惹きつけられている。私が花を美しいと感じる要素の背景には、潜在的なものとして埋まっていた原体験があったことに、言語化を通して気づくことができた。

また、25個の魅力要素を裏付ける原体験を俯瞰して見た時、[安心する原体験、愛情を感じる原体験、ワクワクした原体験]の3つにグルーピングできると考えた。前述した要素①は[愛情を感じる原体験]に分類される。また、安心する原体験→愛情を感じる原体験→ワクワクする原体験 の順に、形をずらしたりしないと良さに気づかなかったものになっている。

これらのことから、花空間の設計は、原体験を再現体験できる空間を作ることを目標とし、視覚で捉えていた花の魅力を、体験していくことのできる空間、「私の花空間」を考えていく。

3.「私の花空間」を考える

(1)花空間のガイドラインをつくる

花空間をつくる上で、視覚で捉えた魅力を、原体験ができる空間として置き換える際、花らしさを失わないようにすることが重要であると考えた。近づいた時、離れた時、入ったときにどう見えれば自分が花から感じたものを空間として表現ができるのかを検討した。結果、その成否は空間を構成するエレメントの使い方にあるとわかった。同じ原体験ができる空間でも、エレメントの重ね方や大きさを変えることで、花の柔らかさやあたたかみを残すことができる。例えば、[要素①:手のひらをかぶせたような形]は、太いエレメントで、スキマができるようにエレメントを交わらせることで、花らしさを残した、柔らかい包み込まれる空間になる。

   

同様に他の要素も、花らしさを失わない表現の仕方は何なのかを検討した。これらを「花空間ガイドライン」とし、これを基に花空間をつくる。

(2)花空間をつくる

(1)のガイドラインを基に、花のもつ表情やリズムの中で、25個の原体験をしていく「私の花空間」を設計する。その際、先程グルーピングした原体験を、安心する原体験→愛情を感じる原体験→ワクワクする原体験、の順に動線を組んだ空間配置にすることで、より自分の潜在的な感情や体験に向かいながら、「私の花空間」をめぐることができるようにする。

各要素空間の結びつきは、花らしさを失わないコンポジションのバリエーションを考えていくことで決定する。結果、花に近づくためには、1.引き戻すような線を描くこと 2.空気のたまり場をつくること 3.分岐を生むこと 4.空間同士は並べるのではなく重ねること 5.図形などの幾何学的な形である「閉じた輪郭」と、ある形を解くことによってできる「開いた輪郭」を組み合わせること が必要であるとわかった。

この「花空間の形態」5つに基づき、25個の要素空間を連続性をもたせながらつなげていくことで、私の花空間は完成する。

 

断面パース

パース・模型写真

   

     

   

 

 

まとめ

本研究は、自分がなぜ花に惹かれるのかを明らかにし、その要素をヒントに空間デザインとして表現することを目的とした。結果、私が魅力に感じる花の形・要素・現象には、自身の原体験が強く影響しているとわかり、それが花空間を構築する大きな軸となった。

花のように、目で見て魅力的だと感じるものはたくさんある。しかし、人がわざわざ山を登ってでも綺麗な景色を見るように、視覚的な刺激は、体験を伴うことによってより価値あるものになる。見て楽しむ花をあえて空間化した理由はここにあり、視覚的に惹かれるものを体験としても味わうことによって、よりその魅力価値を理解することにつながる。できあがった「私の花空間」をめぐる空間体験により、花に対して抱く魅力を深く理解し、味わうことができるのである。

「惹かれるものには、必ず惹かれる理由があり、隠された自らの感情がある。」今回、大好きな花を研究したことによって改めて気づいた大切なこと。機能や目的に沿った建築だけでなく、形から人がどう感じるのかを分析し、「感じてほしい感情」を優先させてつくる空間が、今後の建築に新しい風を吹き込むことを期待する。

参考文献

小林正明「身近な植物から花の進化を考える」東海大学出版会 / 2001年

ドーチ・ジョージ、多木浩二「デザインの自然学:自然・芸術・建築におけるプロポーション」青土社 / 2014年

小川雄一「ブーケ・アレンジメント・スワッグデザイン図鑑300」株式会社誠文堂新光社 / 2019年

ヴァリシーカンディンスキー「点と線から面へ」筑摩書房 / 2017年

 

研究を終えて

この卒業制作を通して私が感じたこと。

それは、既に存在するものの「良さ」を考えることは、思っているよりも難しく、けれどもデザインを考える上ではとても大切なことだということ。

大学では課題解決によるデザインを学んできました。もちろん、そうやってどんどん新しいデザインが生まれていくのであり、その恩恵をうけているのは事実です。

ですが、私は課題解決によらないデザインがあってもいいんじゃないかと思います。

だめな部分が目について、いい部分はみえなくなりがちです。

だからこそ、好きなものをとことん追求して、なぜ好きかを考える。そして考える前よりも好きになる。ものや人も同じです。言葉にする、表現することで、良いところを理解して、盗んで、自分のものにする。そして新しいデザインに活かす。こんな考え方のもと、もっと自由にものづくりをしてもいいんじゃないかな、と。

大好きな花を研究したことで気づけたこと。これからも大切にしていきたいなと思います。

 

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