2020年以降の新型コロナウイルスの流行により、世界各国で社会的に大きな転換を求められ、人々のライフスタイルは著しく変化した。密集、密接、密閉を避けることが求められ、人と会うことが難しくなり、外出自粛、外出をする際にはマスクの着用が義務づけられるようになった。リモート飲み会、リモート授業、オンライン面接など、今まで対面で行われてきたことが遠隔で行われるようになり、人と人との距離の確保が重要視されている。
このような状況の下、成人式、卒業式などのイベントの開催様式も変化している。例えば、成人式の式典では、今までは一度に行われていた式典も時間制となり、同一会場でにおいて居住区域毎に時間を区切って同一会場で開催している市町村も多くなっている見受けられる。そのため、同じ場所にいるにもかかわらず、友人らと一緒に記念写真を撮りたい人と写真を撮れないという問題が発生している。
本研究では、このような問題の解決策としてウェブカメラを利用した時差画像を基にした集合写真の生成システムを開発する。これにより、時間差によって集合写真が撮れない問題を解決し、思い出の共有、共有によるコミュニケーションの発生を支援していく。
調査
本研究を進めるにあたり、人が物理的に同じ空間にいない場合(オンラインなど)のコミュニケーションを取り扱って いる2つの論文を参考にした。
西田ら(2009)は、リアルタイムに進行するコンテンツを大勢の人が同時に視聴する際に、聴衆同士、または観衆とコンテンツ提供者との間のコミュニケーションの必要性を研究している。リアルタイムコンテンツを視聴中の議論には、先の展開を予測する楽しさや、コンテンツ提供者が聴衆の反応を見ながら取り上げる内容や順序を工夫することで、先の展開に影響を与えられる醍醐味など、事後のコミュニケーションには代えられない価値があると述べている。また遠藤ら(2003)は、コンテンツ再生中に限定して、利用ユーザが再生するコンテンツと同属性のコンテンツを同時刻に再生している他ユーザとの情報交換を可能とするシステムを提案している。ユーザのコンテンツ再生と同時にコミュニティが発生し、全ユーザが再生終了すると同時にコミュニティが消滅する仕組みを作成した。リアルな場での「すれ違う人」「同じ空間にいる人」を、同一コンテンツ再生ユーザのアイコン表示で表現するなど視聴情報を工夫している。
これら2つの研究論文では、コンテンツ利用者が同一の空間にいない場合でも、同一時間に共通のコンテンツを共有することで新たなコミュニケーションが生まれることを明らかにしている。本研究では、これらの関連研究とは異なり、「同じ空間ではあるけれども、時間が異なるために思い出を共有できない」という問題を解決、支援するものである。
研究方法
本研究で開発する集合写真生成システムは、同一の場所に異なる時間に存在した利用者が異なる時間に撮影した時差画像から集合写真を作成するものであり、その利用イメージを図1に示す。
利用者は、任意の時間帯に、任意の位置、ポーズで撮影をしてもらう。複数の利用者により、それが繰り返されることにより,集合写真を生成していく。
(2)集合写真の生成プロセス
各自が撮影した人物写真と背景画像をもとに、背景差分法を用いて人物の撮影像を抽出ししてさせて、合成画像処理により集合写真生成を行う。
集合写真の生成プロセスの手順は以下の通りである。
①背景画像、差分画像、保存する画像のメモリ領域を確保する。
②背景画像と現在撮影画像のピクセルデータを取得する。
③背景画像と現在画像のRGBそれぞれのピクセルデータの差を出す。
④選択中の切り抜きデータを一時的に保存しておく。
⑤RGBの和の平均から閾値を比較し、値を0か255にする。0の場合、背景画像との差がないため透過され、255の場合、差があるため画像データが描画される。
⑥背景画像、撮影された切り抜き画像の順で重ねて描画していくと合成写真が生成される。切り抜き画像は撮影された順に上に重ね合わせる処理を行う。
(3)システム構築
使用する機材は、ノートパソコン(MacBook pro),シ開発環境にはopenFrameworks(C++)を使用した。
構築したシステムの実行画面イメージを図-3に示す3構築したシステムのイメージ設定画面上には、ライブ映像画面(閾値設定のため白黒映像)、撮影ボタン、閾値変更ボタンモード切り替えボタンを設置している。また、撮影画面上には、ライブ映像画面(カラー映像)、撮影後の人物切り抜きデータ一覧、撮影ボタン、保存ボタン、モード切り替えボタンを設置している。
利用者による撮影の手順は以下の通りである。
① 撮影モードで背景を撮影する。
② 設定モードへと切り替えて、閾値変更ボタンで背景と人物の境界線を定める。
③ 撮影モードへ切り替えて、各々撮影していく。
④ 合成写真が撮れたら、保存ボタンで保存する。
⑤ ノートパソコン内の保存先フォルダから自分の写真を選択し、携帯内に保存する。
また、使用感調査を行う際には、図3の撮影手順イメージを説明書として設置する。
Ⅳ. 使用感調査と考察
使用感を調査するため、システムの利用実験を行い、被験者にアンケート形式で回答してもらった。被験者は卒業式や成人式などのイベントごとが多い大学生を対象とし、2名2グループ、3名1グループの大学生合計7名の協力を得た。
被験者には、本システムを体験してもらい、システムの使いやすさ、思い出に残るか、意見要望を回答してもらった。
「使いやすかったか」「思い出に残るか」という質問を5段階評価で行い、各理由も述べて貰った。
使用感に関しては、「使いやすい」と答えた人は3人、「やや使いやすい」は2人、「どちらでもない」は2人であった。理由として、「シンプルなデザインで分かりやすい」「説明書があり分かりやすかった」という意見が多かった。
「思い出に残るか」という質問では、「残る」と回答した人は4人、「やや残る」は3人であった。その理由として、「普通に撮影するより合成で撮影することが、新しく新鮮に撮れたから」「普通に撮影するより上手く撮るのが難しく、上手く撮れた時の達成感が思い出に残るから」という意見があった。
アンケート結果に、「写真撮影後、写真を共有し、完成した写真の会話や撮影時の話で盛り上がることができた出来た」と回答があった。本コンテンツの使用を通して、コンテンツ使用後のコンテンツ利用者同士でのコミュニケーションが生まれたことで思い出づくりのきっかけとなり、思い出の共有の支援ができたのではないかと考える。このことから、本目的として挙げていた「同じ空間ではあるけれども、時間が異なるために思い出を共有できない」という問題を解決できたと考える。また、改善点として「集合写真なのでもっと遠くから撮影ができると嬉しい」「フィルター機能があると嬉しい」という意見も挙がった。これらの意見に対して、今後、システムへの機能追加が望まれる。
まとめ
今回の研究では、時差画像からの集合写真の制作システムを完成させることができた。
アンケート結果から、「使用感」「思い出に残るか」に関しては、高い評価を得たため、使いやすく、思い出に残すことが可能なコンテンツが制作できたといえる。
また、課題として、写真アプリとしての機能不足が挙げられた。今後は、離れた場所からでも撮影できるようタイマー機能の追加や、イベントごとでオシャレに撮りたい人向けのフィルター機能の追加など基本的な機能をさらに追加していくことで集合写真アプリとしての機能の幅も広がり、より有用なアプリになるのではないかと考える。
参考文献
[1]リアルタイムコンテンツ視聴中のコミュニケーション支 援システムの設計とその実証実験 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssst/28/2/28_2_2_183/ _pdf/-char/ja
[2] コンテンツ視聴情報を利用した動的コミュニティにおけるユーザ特性の分析 https://www.ieice.org/publications/conference-FIT- DVDs/FIT2003/pdf/M/M_127.pdf
研究を終えて
人と人との距離が重要視される今の社会の現状で、「離れていても繋がりを大切にしたい」という人々の気持ちを尊重できるような作品づくりができたのではないかと思います。