VRゲームのアバター表現が没入感に及ぼす影響
黒澤拓也
蒔苗研究室
2021 年度卒業
現在,VR技術は教育や医療の分野等,様々な場面で用いられている.その際に用いるアバターの表示方法は決まっておらず,手と頭部のみを表示するものや、全身を表示するものまで多数ある.それらのほとんどは表示方法について目的が明言されていない. そこで本研究では,VRゲームでの対戦相手の表示方法を増減させることで体験者の印象の変化を調査する. 体験に最も影響を与える部位を明らかにすることが研究目的だ.

はじめに

現在,VR(Virtual Reality)技術は教育や医療の分野等様々な場面で用いられている.ゲーム分野でもVRの流行が起きており,2015年にプレイステーションVRが発表されたことで一般にも普及していった.ゲームの中でも,VRChatを代表として,仮想空間の中でアバターを用いて新しい自分として交流するコミュニケーションツールとしても使われるようになり,今後も新たな利用方法が開拓されて普及すると考えられる.

一方,VRゲームでは,FPSの様に相手の姿の有無が勝敗に関わるもの以外では,相手を手と頭のみで表したアバターとして表現しているものもある.アバターの表示方法の選び方は通信や処理速度の問題が考えられるが,今年発売されたVR作品でも手と頭部のみの表現方法が使われていることや,VRChatでは多くのアバターが全身アバターを用いていることから,全身アバターを使用することの優位性が常に存在するとは限らないことが考えられる.

そこで本研究では、VRゲームでの対戦相手の提示方法として、全身を表示する方法の他に人型の表示部位を増減させてゲームを行う。それにより、被験者が受ける対戦相手の存在感、ゲームに対しての没入感、対戦のしやすさに影響があるのかを調査することを研究の目的とする。

調査

VR空間内での活動では、自分自身の動きとアバターの動きの同期性が高まることで没入感を大きく感じさせる。

小柳ら[1]の研究では、アバターとユーザーに同期した多感覚刺激を提示することでユーザーの身体所有感を生起させること、アバターの見た目が変化することによって楽器の演奏のような身体運動がリズミカルに行えるようになること[2]を踏まえ、ユーザー自身が用意したセルフアバターと実験で用意した一般的なヒトアバターを使用した際の身体所有感と臨場感の変化を実験により検証している。結果として、使い慣れたセルフアバターを利用することが簡易的に体験の質を向上させる方法であること、また、一般的な環境においても運動の同期性を維持し続けることで身体所有感は生起可能であることを明らかにしている。

またアバターを用いたコミュニケーションの研究として、神保 [3] は、表情投影アバターを用いてチャットによるコミュニケーションでのなりきり性、感情伝達性、信頼性、匿名性の観点の検証を行っている。結果として、なりきり性という面では実際の姿とはかけ離れたものが話しやすいと感じられること、その次に同性のアバターが話しやすいと感じられることを結果として得ている。

加藤ら[4]の研究では、実空間における非言語コミュニケーションの一つである身体接触の有用性がバーチャル空間で行われる擬似的な身体接触でも影響を与えるのかについて実験を行なっている。バーチャル空間におけるアバターを用いたコミュニケーションでは,   実際の接触、擬似接触、接触なしにかかわらず相手への好感度の増加とコミュニケーション難易度の低下を示唆する結果を得ている。

これらの先行研究により、VR環境では自身のアバターの存在を多感覚刺激によって認知することで身体所有感を増幅させることが明らかとなっている。その一方で、VRを用いて他者とコミュニケーションを行う際、視覚と聴覚である程度の多感覚刺激があれば、それ以上の効果が出にくいと考えられる。

そのため、相手のアバターにおいても存在を認知することができる要素さえあれば、ゲームの楽しさ、没入感は十分に生起させられると考えられる。

研究方法

本研究では、視界に入るゲーム対戦相手の身体情報はある程度あればゲームの楽しさへの影響は変化しないと仮定し、相手の表示において必要な身体情報はどの部位なのかを明らかにするために実験を行う。アバターの変化によって生じる印象の変化を実験後のアンケートによる被験者の主観評価によって把握する。

今回の実験では、ゲームの盤上と相手アバターの存在を常に視界に入れておけるという点でアーケードゲームのエアホッケーを選択した。エアホッケーはハンドルを持ってパックを弾き合い、相手のゴールにパックを入れることを目的とするネット型のゲームである。

本研究では、2台のHMDを通信させてVR空間内での対戦を可能とする点、またアバターを何度も変更するという点から、その機能実装が容易な既存のVRプラットフォームであるVRChat を使用する。ゲームのプレイにはコントローラ付きのHMD(Head Mounted Display)、Oculus Quest2を使用する。

図は今回実験で用いる公開ワールドであり、図3がゲームに用いたアバターである。図-3(a)はVRChat で公開されている全身アバター(アバター1)、図-3(b)は自作のアバターであり、手、腕部、胴部、頭部のものから順に身体のパーツを減らしたものとし,合計5体を用意して被験者からの見え方を変化させる。アバターは表示量の多い順からそれぞれアバター2、3、4、5とする。

 

実験内容は、被験者をプレイヤーとして、プレイ毎に対戦相手のアバターを交換してVRゲームを体験させる。被験者のアバターは固定し、対戦相手のアバターのみを変化させてエアホッケーを行ってもらう。アバター毎に4分経過する、またはどちらかが5点先取した時点でそのアバターでの実験を止め、次のアバターに交換する。

実験後、各プレイの際の対戦相手の存在感の覚え方、ゲームへの没入感、対戦のしやすさに対して5段階のアンケートを実施し、被験者の主観評価を評価の基準とする。また、実験の際に実験者が手を振る動作を行い、実際に認識できているかについても確認する。

本研究では、宮城大学の学生8名を被験者として実験を行なった。実験はある程度の動ける広さを取って行い、実験の際の距離は被験者にとってやりやすい方を選んでもらった。また、最初のアバターでの実験の際にVR酔いを感じているかどうか質問し、被験者が酔いを感じた場合には実験を止めた。

まとめ

図は実験後に行ったアンケートの結果を箱ひげ図に表したものである

全ての5段階の質問項目において,アバター4から評価が低い傾向が認められ、アバター5では大きく下がっていることが読み取れる。

また実験者が対して手を振る動作の確認に関してはほとんどの被験者が認識できていた。

 

本研究では、対戦相手のアバターの表示量を増減させることでVR体験の印象の変化について調査した。実験結果から、アバターを認識する際には頭部と胴部の有無が体験者に与える影響が大きいことがわかった。

今後は、異なるジャンルのVR作品でも実験を行い、同様の結果が得られるかを検証することが課題である。

参考文献

 

参考文献

[1]小柳陽光・鳴海拓志・大村廉.(2020) ソーシャルVRコンテンツにおける普段使いのアバタによる身体所有感と体験の質の向上. 日本バーチャルリアリティ学会論文誌Vol.25,No.1,2020

[2] Kilteni, K., Bergstrom, I. and Slater, M. Drumming in Immersive Virtual Reality: The Body Shapes the Way We Play, In Proc. Of Virtual Reality(VR), pp.597-605 , 2013

[3]神保貴昭.(2017)表情投影アバターを用いたチャットによる日常会話への動機付けに関する研究.

[4]加藤優貴・杉本麻樹・稲見昌彦・北沢充晃.(2020)バーチャル空間での接触が対人コミュニケーションに及ぼす効果. 第25回バーチャルリアリティ学会大会論文集14

研究を終えて

自分が思っていたよりも影響が大きく出ていて面白いと感じた.

今回の実験ではVR慣れしている被験者が少なかった.多くが慣れていない人の動きをする中で一人だけ,現実に似た動きをする被験者がいた(遅いパックは上から押さえて自身の前で止めてから打つ.多くの人は動くパックをダイレクトに打つor追いつけずに見守る中で, 説明をせずにその動きをしたのは一人だけだった).VRを 現実違う場所 と捉えるのではなく,現実世界の延長と捉えているように感じられて面白く感じた.初体験なのに.

VR慣れに関する分野にも興味が湧いた.

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