アドラテジー ~Adrategy~ -SNS広告の戦略を学ぶ-
敦賀詩織
日原研究室
2021 年度卒業
SNSの急激な発展に伴い、それを活用した広告の把握と新たな手法を生む創造力が求められる。SNS広告に興味を持つ人をターゲットとして、知識・技術やリテラシーを身に着けてもらうことを目的に研究を行った。実践的かつ能動的に学ぶ手法として、シナリオに沿って広告に関するアイデアを考えるアナログゲーム(TRPG)の制作を行った。

はじめに

日本のネットユーザーにおけるSNS利用者は7975万人、利用率は80.3%である。今後の広告戦略でSNSの存在は無視できない。多くのユーザーにより効果的に発信する手法が求められる。

広告戦略を拡大させるために必要なことは2つあると考える。1つ目は現状存在する手法の把握・活用である。各SNSにできることやその効果を把握し、目的に応じて使い分けることが求められる。2つ目はこれから広告事業にふれる次世代の育成である。今存在する手法だけでなく、どのような手法を用いればより広告効果を高められるか考える力を身に着けることで、新たな広告手法の創造・発展につながると考える。

本研究では、SNSを活用した広告について、ゲームによる疑似体験を通じてそれを利用する際のリテラシーを知ってもらうことを目的とする。広告に興味・関心を抱く人々へ向けた、理解の入り口となる内容を提案する。

調査

本学に所属する学生を対象に、SNSを活用した広告・宣伝に関するアンケート調査を実施した。調査方法はGoogleフォーム、調査期間は7月13日から7月18日、有効回答数は226である。

〇SNSの利用・閲覧率

普段利用・閲覧しているSNSについて複数回答可の調査を行った。その結果、Facebookが9.3%、Twitterが85.8%、Instagramが82.7%、LINEが100%であった。全国の15~79歳が対象のモバイル研究所の調査ではTwitterが41.0%、Instagramが34.3%であり、大きく差が生じている。

〇公式アカウントの運営

企業や団体などの立場になった時に公式アカウントを運営したいかどうか調査を行った。その結果、Yesが51.3%、Noが48.7%であった。理由として、Yesと答えた人々は「手軽に情報発信できるから」「多くの人々に企業や団体のことを知ってもらえるため」「公式アカウントが親しみやすいと企業にも好感が持てるから」と回答した。Noと答えた人々は「何をすれば良いかわからないから」「炎上したら嫌だから」「効果があるようなことができると思えないから」と回答した。運営したいと考える人々は手軽さやターゲットの多さ、親しみやすさなどに利点を感じていた。一方で運営したくないと考える人々は炎上リスクや効果の有無を気にしている。また方法がわからないことやそれから生じる不安を挙げる人々が多かった。

研究方法

〇TRPG制作

本研究ではSNS広告を題材としたアナログゲーム「アドラテジー ~Adrategy~」を制作した。「Adrategy」は、広告を表す単語「advertising」と戦略を表す単語「strategy」を合わせた筆者の造語である。本ゲームは商品の宣伝や団体の広報など広告が必要な場面において、どのような手法を使えばより効果的に広告が行えるか考えて遊ぶ。

・ルール

本ゲームは参加者自身が作成したキャラクターを用いる。ランダムに引いた広告が必要な場面を示すカード3枚を基にアイデアを考えて成否の判定を行い、他の参加者のアイデアへ投票することでゲームが進行する。1枚のカードにつき1ターンとなり、これを3ターン繰り返す。

・制作物

本ゲームの制作にあたり、ゲームに関する情報を記載したルールブック及びゲームに使用する場面カードを制作した。ルールブックは基本となるルールに加え、各場面カードの解説、すぐに体験できるサンプルシナリオ及びサンプルキャラを収録している。

場面カードは作品のイメージカラーであるオレンジを基調としたより見やすいデザインを目指した。カードの内容は実際の事例をもとに考案している。一例として、場面カード「No.6 大ヒット上映中?」を取り上げる。このカードでは既に公開している大ヒット映画を宣伝する方法として、口コミがメインの広告について考える必要がある。参考とした事例はウォルト・ディズニー・ジャパンによる映画「アナと雪の女王2」ステルスマーケティング騒動である。本騒動は、2019年12月に複数人の漫画家が映画「アナと雪の女王2」に関する感想漫画を公開した際に、報酬が支払われていたにも関わらずマーケティング施策であることを示す表記が存在しなかったことでステルスマーケティングとして話題となった。ステルスマーケティングは業界全体の信用を毀損し得る行為であるため注意が必要である。このように実際の事例をモチーフとすることで実用的な知識の習得へとつながる。

 

〇試遊

・概要

10代から50代の男女7人を対象に対面による試遊を実施した。基本ルールとなる3ターン制で行い、事前に用意したシナリオ及びキャラクターを使用した。試遊に関する意見及び感想は口頭及びGoogleフォームを用いたアンケートで収集した。

・試遊中の様子・意見・感想

試遊前の評判として「そもそもTRPGについて知らない」「ルールが複雑そう」といった意見が見られた。特にアナログゲームに馴染みのない参加者はそれが顕著であり、説明に時間を要した。試遊中は実際の事例を基に考えたアイデアを紹介する参加者がいた。中には参考とした動画を提示しながら具体的について説明した参加者もおり、アイデアだけでなく伝える方法についても工夫が見られた。一方で、法律違反の恐れがあるアイデアを発表した参加者もいた。試遊後は「アイデアを考えるのが楽しかった」「頭を使うけど面白い」「教育の場や友達同士など様々な場面で遊べそう」といった感想が見られた。また、「実際の事例やサンプルがあればアイデアの参考になりそう」「判定に使う数値を増減する要素があるといい」といった改善案も見られた。

・検証

本ゲームに関して、試遊前は不安を抱く参加者もいたが、TRPG及びルールについて資料を用いて説明を行ったため十分に理解を得られた。また、途中でアイデアの発表に詰まり進行不能になる参加者もおらず、円滑に進行することができた。よって、ゲームとして成立すると考える。一方で、試遊及び参加者の感想を通して更なる発展の余地も見込めた。参加者及び場面に合わせた拡張性のあるルールを採用することで、ゲームに面白さを持たせることができると考える。それにより学習教材としてだけでなく、人々の交流の場としても活用できる可能性があるものと考える。

広告手法に関して、ゲーム中の解説及び各参加者の発表から気づきを得た参加者が多かった。SNSのクラッキングなど危険な手段を用いるアイデアもあったものの、遊びであることを踏まえた発言であったので理解に悪影響はないと考える。一方で、前述の実際の事例に関する意見は、カード制作の意図が十分に伝わっていなかったことを表している。本ゲームはSNS広告の理解の手助けとはなるが、内容については改善の余地があるといえる。今回は事例を基にオリジナルの内容でカードを制作したが、実際の事例をそのまま反映させたカードを活用できればより理解しやすくなると考える。

まとめ

SNS及びそれを利用した広告は短期間で発展・変化を繰り返しており、それに追いつくためには今ある技術や知識の習得と変化に対応できる柔軟な思考力が必要である。本研究で制作したゲームによる疑似体験を通じて、学習及び実践の両方に取り組み、知識を身に着けつつ思考力を鍛えることができると考える。また、試遊を行ったことで当初は想定していなかった人々の交流の場としての活用方法も見出すことができた。広告に興味を持たない人であっても、本ゲームを遊ぶことで新たに興味を持つ可能性がある。本ゲームを活用できる場を増やすことで、広告に関してより多くの人々へ向けて周知することができると考える。

参考文献

ICT総研:2020年度 SNS利用動向に関する調査 <https://ictr.co.jp/report/20200729.html/> (参照 2021年7月7日) .

モバイル社会研究所:LINE利用率8割超え:10~30代は9割が利用 <https://www.moba-ken.jp/project/others/sns20210520.html> (参照 2021年7月7日) .

東洋経済ONLINE:なぜ「アナ雪2のステマ騒動」は起きたのか <https://toyokeizai.net/articles/-/320158> (参照 2022年1月16日) .

岡島法律事務所:ステルスマーケティングの法的問題 <https://okajima-law.jp/service/lawyerscolumn/stealth-marketlng> (参照 2022年1月16日) .

研究を終えて

2020年11月に登場し翌年8月に終了したTwitterのフリート機能など、SNSは移り変わりが激しく、変化に対応しながら研究することに苦労した。現在の状況や手法についてまとめ終える頃には既に古い情報となっていることも珍しくない。そのように変化し続けるツールだからこそ、創造力が求められると改めて実感した。ただ今あるものを追いかけるだけでなく、自分自身で新しい価値を生み出すことが重要である。本研究で満足せず、常に最先端を学び考えることを意識していきたい。

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