有酸素運動×VRゲームが英単語学習に与える効果
菊地亮太
蒔苗研究室
2021 年度卒業
本研究では、VRおよび有酸素運動要素を取り込んだ英単語学習ゲームを制作した。以前より、有酸素運動を行うことで脳が活性化し、記憶力が向上することが分かっていた。そこで、VR・ゲームというコンテンツを組み込むことで学習意欲の向上を促しつつ、効率の良い暗記ができるようなアプリケーションを制作しようと考えた。

はじめに

近年、VRの研究は急激に進み、医療用シミュレーショ
ン、仮想宇宙旅行、競技用トレーニングなど様々な用途で
のVR利用がみられるようになった。本研究では、それら
の中でも特に教育分野へのVR利用に着目する。これまで
も科学実験を疑似体験できる研究や、宇宙誕生の流れを仮
想体験できる研究など、教育分野でも様々な研究が進めら
れている。しかし、その学習内容は専門性の高いものが多
く、学習対象者が少ないという特徴があった。そこで、本
研究ではより多くの人が学習対象者となる英語学習に着目
し、特に学習のモチベーション維持が難しい英単語暗記を
対象に研究を進めることとする。
VR英単語学習を行う上では、学習効率の向上とモチベ
ーション維持が大きな課題である。本研究では、学習効率
の向上には有酸素運動が、またモチベーション維持には
VR・ゲーム要素が適していると考え、それらの要素を含
めたアプリケーションを作成し、実験によりその有効性の
検証を行う。

調査

有酸素運動による学習効果への影響の調査

以前より、低強度の運動をすることで、海馬と周辺皮
質が活発になるという研究結果が多くの動物実験で検証さ
れてきた。近年の研究で、10分程度の軽い運動をするだけ
で、人の脳の海馬が刺激され、記憶能力が向上することが
明らかになっている(征矢ら,2017)。征矢らの実験は、
学生ら36人に10分間自転車をこぐ運動を行わせた後、約
600枚の絵を見せ同じ絵を判別するというものである。運
動の有無で正答率を比較すると、運動した直後の正答率が
36.9%で、安静時の31.4%より5.5%増加するという結果にな
り,この実験結果から短時間の運動で人の記憶力が向上す
るということが確認されている。


VR環境下での学習の有用性の調査

VR環境下で学習した際に得られるメリットとして、学
習を開始するきっかけになるという点が挙げられる。近年
では、VR機器の普及やメディアでの報道をきっかけに、
VRの知名度が急激に上昇してきている。2019年に実施さ
れたアンケート(TesTee,2019)では、10代20代のいず
れもVRの認知度は約90%となっており、前年比で約20%
も上昇した。また、VRを体験してみたいかというアンケ
ートに対しては、体験したいと答えた人の数が10代20代と
もに90%近くに及び、VRは特に若者の間で興味を持たれ
ているコンテンツといえるだろう。しかし、その一方で
VRというコンテンツに触れたことがない人も多く、「体
験意欲はあるが、きっかけがない」という状態になってい
るのが現状である。そこで、勉強とVRを絡めることで、
VRというコンテンツを学習のきっかけにすることができる
のではないかと考える。

研究方法

VR英単語学習アプリケーションの制作

本実験に用いるVRゲームのジャンルとして、シューテ
ィングを採用する。その理由として、VR空間でのプレイ
により、現実のシューティングに近い体験が可能である
点、学習での継続的な使用が求められるため何度もプレイ
したくなるためのモチベーションの提供が必要という点が
挙げられる。ゲーム内容は、英単語の日本語訳を見て、そ
の英単語のスペルを解答するものである。プレイ時は、空
中に浮いているアルファベット1字が書かれたパネルに照
準を合わせて撃ち落とすことで、スペルの入力が可能とな
っている。空中には英単語のスペルを分解したパ
ネルが浮いており、正しい順番でパネルを撃っていくこと
で英単語が完成する。また、本ゲームではコントローラー
を銃として扱い、トリガーボタンで弾の発射、A/Xボタン
でパネルのリセット、スクワットでリロードを行うことが
できる。

VR英単語学習アプリケーションを用いた実験

実験の目的

HMDを装着した状態で有酸素運動を行った際も、有酸素運動
によって学習効果が向上するかを確認する。また、VRおよび
ゲームの要素が追加されたことによる英単語学習への
モチベーションの変化も確認する。

実験方法と結果

大学生6人に対し、有酸素運動なしの状態で10分間のプレ
イ時間、5分間の解答時間を与え、英単語テストを全20問解
答してもらった。その後10分間の休憩を挟み、有酸素運動
ありの状態にして同様の流れでもう一度テストを行った。
実験結果は下の図のようになった。

実験の結果、1名の被験者を除き、HMDを装着した状態
であっても、有酸素運動ありの方が有酸素運動なしに比べ
スコアが向上する傾向がみられた。また、点数が減少した
被験者に関しては、アンケートで「運動量が少ないと感じ

た」と回答しており、学習効果を上げるために十分な運動
ができていなかったことが影響している可能性がある。

考察
本実験の結果、有酸素運動はHMDの有無に関係なく、学
習効果を向上させ得るということがわかった。しかし、ど
ちらも効果量に個人差がみられた。特に有酸素運動後に得

点が10点以上上昇したケースに関しては、有酸素運動の有
無以外にも要因がある可能性もあり、改めて結果を精査す
る必要がある。

まとめ

今回は、有酸素運動×VR学習に関するアプリ開発を行
い、本アプリが英単語学習に与える効果について、実験に
よりその有効性に関する検証を進めた。本実験の結果か
ら、個人差はあるものの有酸素運動が学習効果に良い影響
を与えることが明らかになった。またアンケートでは、5人
がVRによるモチベーションの増加があったと回答してお
り、VRを用いることで学習に対してポジティブな影響を与
えるということも明らかになった。また一方で、適切な運
動量の個人差による効果のばらつきが課題として残った。
この課題に対しては、今後ゲーム内で運動量を調整できる
ようにすることで改善を図りたい。

参考文献

征矢英昭・諏訪部和也・越智元太・兵頭和樹・Kyeongho
Byun・Michael A Yassa(2017)Acute moderate
exercise improves mnemonic discrimination in young
adult. Hippocampus,27,229-234.
高山直人(2019)VR/ARに関する調査レポート【2019年度
版】. TesTee Lab,2019年3月13日,
https://lab.testee.co/2019-vrar-result(2021年7月19日閲
覧)

研究を終えて

研究を通して、改めてVRの持つ可能性に気づかされた。特に教育分野に関しては、VRを使用することによるメリットが非常に大きく、更なる研究の余地が残っていると感じた。また、私が思っていた以上に、世間のVRへの関心というのは強いものだった。VRによるモチベーションの向上効果は、様々な分野で応用できると思われる。

私の実験では、被験者の年齢や性別による効果差を確認することができなかったが、今後さらに研究が進んでいく過程で、これらのファクターもすべてクリアした有酸素運動×VRアプリケーションが見られることだろう。

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