スカイラインの状態が景観の評価に与える影響
善波幹喜
小地沢研究室
2020 年度卒業
本研究は、スカイラインの構成要素と組み合わせ、そしてそれらが景観に占める割合が景観に与える影響について明らかにすることを目的としている。スカイラインを複数層として捉え、それらの割合・組み合わせが景観に与える影響について明らかにした論文はこれまで存在していない。これまでにスカイラインを複数層として捉えた際 の景観計画の効果を検証しようとする点において本研究の独自性がある。

はじめに

景観計画の重要な項目としてスカイラインがある。一般に「大地や建物などによって区切られた空の輪郭」と定義されており、基本的に空との境界線とされてきた。しかし梅津ら1の国内の研究では、スカイラインは眺望景観における背景を指す場合と、前景の建築物群からなる連なりを指す場合があることが明らかにされている。これは、スカイラインは複数層存在し、複数のスカイラインが重なって景観を構成しているという考え方である。

景観法の施行後に策定された景観計画の代表的な例として京都府京都市の景観計画が挙げられる。京都市2)は特定した視点場からの眺望景観を保全、創出するために規制が必要となる地域を指定し、建築物等の高さを規制した。眺望景観の保全、創出において、このような視点場から視対象の間に建つ建築物の高さを規制する手法は他の自治体でも確認できる。しかし、視対象の背後の建築物の高さを規制し、統一されたスカイラインを保全・創出させる例は、宮崎市の1件しか確認されておらず、規制による景観評価への効果は不透明である。

本研究は、スカイラインの構成要素と組み合わせ、そしてそれらが景観に占める割合が景観に与える影響について明らかにすることを目的とする。スカイラインを複数層として捉え、それらの割合・組み合わせが景観に与える影響について明らかにした論文はこれまで存在していない。本研究は、これまでにスカイラインを複数層として捉えた際の景観計画の効果を検証しようとする点において独自性がある。

調査

研究方法

本研究ではスカイラインは複数層によって構成されていると考え、空、建築物、街路樹などのいずれかとの境界線をスカイラインと定義し、Fig. 1の通り5つに分類した。

BG:スカイラインが二重の時、建築物によって構成されるスカイラインの方が高い状態
GB:スカイラインが二重の時、街路樹などによって構成されるスカイラインの方が高い状態
B:スカイラインが建築物のみで構成されている状態
G:スカイラインが街路樹などのみで構成されている状態
N:スカイラインが構成されていない状態

スカイラインの状態モノクロ1

スカイラインの状態モノクロ2

スカイラインの景観評価を行う地点は、地区計画制度の創成期において、建築協定から地区計画に移行した泉パークタウン寺岡地区(仙台市泉区)から選定した。寺岡六丁目のすべての交差点にて各道路方向の景観を撮影した合計137枚の写真から各説明変数にばらつきが出るように15枚選出し、それらの写真について景観に関するアンケートを回答してもらう形式とした。分析手法は重回帰分析などを用い、写真から抽出した各説明変数と景観評価の因果関係を推測する。
本研究では、スカイラインが景観に占める割合が景観に与える影響について明らかにするために、5つの仮説を設けたが、ここでは仮説1〜4のみ挙げる。
仮説1
スカイラインGおよびGBを含む写真において、SL-G(緑で構成されたスカイラインの長さ/画像の横幅で求められる値)の値が大きく、空の割合が大きい写真は良い景観であると判断される。
仮説2
SL値が小さい写真、スカイラインBを含む写真および建築物面積の割合が大きい写真は悪い景観と判断される。
仮説3
スカイラインBGを含む写真は悪い景観であると判断される。
仮説4
景観評価と住みたさには相関関係がある。以上5つの仮説の検証を行い、スカイラインの構成要素と組み合わせ、そしてそれらが景観に占める割合が景観に与える影響について明らかにする。

2.2 説明変数
設定した仮定を基に写真から抽出する説明変数を選定した。変数にばらつきが出るように選出した15枚の写真についてTable 1で表す。
BG、GB、B、G、N、対称性はダミー変数で表している。各面積の割合およびスカイライン、電線の長さは各値/写真の全面積・横幅の割合にて表すこととし、値はIllustrator及びPhotoshopを用いて算出した。道路幅は、道路台帳から引用した。また本研究では、私有地に生えた樹木によるスカイラインは無視する。Fig. 2には算出部分の例を示した。

予稿集素材Fig2_compressed

 

2.3 アンケート調査
15枚の写真について、景観に関するアンケート調査を行い、その回答結果を目的変数とした。アンケートはGoogleフォームで作成し、仙塩広域都市(仙台市、塩竈市、名取市、多賀城市、岩沼市、富谷市、松島町、七ヶ浜町、利府町、大和町、大衡村)在住者を対象にFacebook広告にて同地域に公開した。公開期間は2021年12月7日から2021年12月20日までの14日間とした。アンケートは15枚の写真に対してそれぞれ3つの質問に回答してもらった。質問内容は以下の通りである。

・写真に写る景観を見て良い景観だと思うか(景観評価)
・写真に写る景観を見て住みたいと思うか(住みたさ)
・写真に写る景観を見て建築物と緑のどちらに印象が残るか

これに加え、回答者の性別、年齢、写真に移った場所を知っていたかどうかの3項目について回答してもらった。

 

研究方法

まとめ

分析と考察

アンケート調査では合計143件の回答が集まった。写真の数値化によって抽出された説明変数とアンケート結果によって得た目的変数を重回帰分析にかけた。

重回帰分析の結果、14項目の説明変数のうち、景観評価に影響を及ぼす可能性のある項目は、「街路樹などの面積」「GB」「SL-B」「道路幅」「電柱の面積」の5項目であることがわかった(Table 2)。そのうち、p値が0.050を下回っている項目は「緑の面積」「GB」「SL-B」「道路幅」の4項目であり、この4項目に関しては景観評価との有意な関係を確認できたと言える。そして「街路樹などの面積」「GB」の値は景観評価と比例関係、「SL-B」「道路幅」の値は反比例の関係があることがわかる。本文Table4

アンケート結果による景観評価と住みたさの評価を基に独立性の検定を行ったところ、15枚中14枚で景観評価と住みたさの間に強い相関関係を確認できた。しかし、写真33aのみ、p値が0.155となり、明らかに相関関係が確認できなかった。33aについて「良い景観だ」と感じたが「住みたいと思わない」と回答した人が多く見られたことから、街路樹などがスカイラインを形成していなくても街路樹などの面積が多ければ景観評価に快方的な影響をもたらす事がわかった。これは重回帰分析の結果による考察とも合致する。しかし、街路樹などの面積は住みたいかどうかの評価には影響を及ぼしていない事が新たに明らかとなった。

まとめ

分析の結果、仮説1〜3は棄却されたが、視対象の背後の建築物の高さを規制し、統一されたスカイラインを保全・創出させる景観計画の効果は証明されたと言える。また、景観計画を策定する際は、街路樹などを用いて建築物のスカイラインを断裂させることや、道路幅を小さく見せる工夫を施す事が適切だといえるだろう。またこの時、街路樹などの量は景観評価に影響を及ぼすが、住みたさには影響を及ぼさないことが明らかとなったので、住宅地や都市部、観光地などその土地の用途によって景観保全の規制法に調整が必要となるだろう。

参考文献

梅津里香,浅野純一郎:都市のスカイラインのコントロール手法に関する研究,日本建築学会技術報告集, Vol. 18, No.38, pp.319-324, 2012

研究を終えて

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