1.背景
ジェンダーとは、「女性は家事、男性は仕事」のような性別にまつわるルールやイメージのことを指す。特に近年、ジェンダーにまつわる様々な課題やアクションが社会現象となっている。その内容は、有害なジェンダーステレオタイプとその表現の見直しやジェンダーギャップの是正、SOGIハラスメントや同性婚訴訟、ボディポジティブ、性教育の普及、性暴力被害の告発や被害者へのケア、緊急避妊薬の法整備など多岐にわたる。
これらの課題の根底には固定的なジェンダー観の無意識な定着があり、個々の課題やアクションは独立せず作用し合う関係にある。しかし、そのことを意識できるようなジェンダーを専門的・体系的に扱うメディアが少ない。そのため、ジェンダー にまつわるトピックのいずれかに興味や関心を持っても、根底にある固定的なジェンダー観に気が付くことや他のトピックへ関心を広げることが難しい。
2.目的
本研究の目的はジェンダーについて気軽に・体系的に学べるwebメディアを制作することで、ジェンダーにまつわる個々の独立した課題やアクションを繋ぐ場をつくることである。
Ⅱ.仮説
1.気軽さの実現
初期段階ではメディアの形態としてオウンドメディアや冊子を検討した。しかし、アクセス方法が限定的となり、気軽さが実現し辛いと考えた。そこでInstagramをプラットフォームとすることで、アクセスの気軽さが実現できると考える。Instagramは、ターゲット層である20代を中心にアクティブユーザーが多く閲覧頻度も高いためである。また、情報発信の形態として文章を中心とした形態と図解を中心とした形態を検討した。図解主体の形態では文章主体の形態よりも伝えられる情報量が少なくなるなどのデメリットがあるが、学びの気軽さの実現を重視し図解主体の形態を選択した。
2.体系的な学びの実現
ジェンダーにまつわる多様なトピックを一つのメディアで解説することで、あるトピックに興味を持ってアカウントを閲覧・訪問した人が他のトピックを発見し、興味関心を持つきっかけになると考える。
また、アカウントをフォローしてもらうことで継続的にトピックを届けることが出来、時間経過とともに興味・関心のあるトピックを増やしていくことができると考える。
調査
1.既存の学びの環境について、環境ごとの違い
ジェンダーについて学ぶことができる環境の1つ目は大学などの学問機関である。専門的な知識を得ることができる一方で学生以外は受講することが難しく広く開かれた入り口とは言い難い。2つ目は書籍である。入門から専門的な内容まで幅広く出版されており入手が容易なものが多い。一方で、入門者には数ある書籍の中から自分が求めている情報を探すのが難しい他、普段本を読まない人にとってはハードルが高い。3つ目はwebメディアである。無料で場所を問わずアクセスでき、気軽な閲覧が可能である。一方で既存のメディアはLGBTQ+や性教育がメインのトピックとなっておりジェンダーについて体系的に学ぶことは難しい。4つ目はワークショップなどの参加型のものがある。参加できる人が場所や時間によって限定されてしまためハードルが高くなる。既存の学び場を調査したところ知識を深めることができる場は多い一方で、知識を身につける第一歩となる場所が少ないことが分かった。
2.既存の学びの環境について、トピックごとの違い
既存メディアを調べる中で、トピックごとに扱われる媒体や扱われ方が異なることがわかった。このことも、ジェンダーにまつわるトピックの行き来が難しい原因となっている。
研究方法
1.公開方法について
最初に検討したオウンドメディア は自由に情報構想を設計できるためトピックごとの記事の分類やタグ、キーワードでの検索などができ情報の整理が容易である。また、ネットに接続できればどこからでも無料で閲覧できるため気軽さが高い。一方でユーザーから認知を得ることや継続的に閲覧してもらうことが難しい。冊子は情報を一連の流れでわかりやすく提示でき、手元に残すことができる。一方で、配布できる場所が限られる。SNSはキーワードやタグでの検索、SNS内でのレコメンド機能などを活用し認知を得ることができる他、フォローしてもらうことで継続的に閲覧してもらうことができる。オウンドメディア 同様ネットに接続できればどこからでも無料で閲覧できる。一方プラットフォームの形態に則った情報発信しかできないため、情報の整理が難しい。
これらを検討し、気軽さと継続的な閲覧を重視し、SNSを選択した。また、SNSの中でも特に画像ベースでの情報発信に特化したInstagramをプラットフォームとする。
2.Instagramでの表現について
既存のInstagramでの表現手法をリサーチしたところ大きく図解を活用したもの、説明文を活用したもの文章を画像にしたもの、動画、漫画に分類できた。「気軽さ」
「情報の伝わりやすさ」「制作コスト」を重視して特徴を比較し、図解を選択した。
3.制作物について
調査した内容を5 つのトピックに分類し各2 項目×4〜5枚で計44枚の画像を制作した。
4.表現の工夫点
分かりやすさと気軽さを実現するために図解には会話形式をとりいれた。その際、女性より男性が、年少者より年長者が優れているといったバイアスが生じないようにジェンダーや年齢を感じない赤ちゃんと動物のアイコンを用いている。
また、女性=赤、男性=青という表現にならないよう赤と青から少しずらした色とジェンダーを感じない黄色を基調にした。ジェンダーは「分かりづらい」「センシティブ」などの評価を受けることが多いため、色やアイコンを多く用いてポップで親しみやすい雰囲気で制作した。
表紙では目を惹くキーワードをタイトルに盛り込み表紙に大きく配置した。
解説には実際に体験したことのある人が多い内容を盛り込むことで、イメージしやすく興味を持ってもらえるようにした。
まとめ
Instagram で実際に図解を公開したところ、各投稿に5~16 の「いいね」を獲得することが出来た。また、毎日新規フォロワーを獲得している。前期に「特に学びたいと考えるジェンダーのトピック」の調査では、提示した全てのトピックで40%以上のユーザーが「特に学びたい」と回答している。これらのことから、ジェンダーにまつわるトピックはいずれも一定の関心を得ており、投稿を継続していくことで仮定で示したプロセスを実現できると考える。
一方で現在のInstagram のみでの発信ではジェンダーへの興味関心がある人へのアプローチやサイト内の情報設計が難しいなどの課題がある。今後、異なるSNS やオウンドメディアを活用してこれらの課題を解決していくことが出来ると考える。
参考文献
[1] 加藤秀一『はじめてのジェンダー論』有斐閣(2017 年)
[2] 加藤秀一『ジェンダー』[図解雑学],ナツメ社(2005 年)
[3] 一橋大学社会学部佐藤文香ゼミ生一同 (著), 佐藤文香 (監修)『ジェンダーについて大学生が真剣に考えてみた――あなたがあなたらしくいられるための29 問』明石書店(2019 年)
[4] LGBT 法連合会『日本と世界のLGBT の現状と課題』かもがわ出版(2019 年)
[5] 『LGBT とハラスメント』
[6] 『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』