地域の魅力を発信するゲームコンテンツ
秋田県鹿角市「旧関善酒店」の魅力を発信するゲームコンテンツの制作
金澤朝陽
鹿野研究室
2020 年度卒業
文化的な建造物や雄大な自然を持つものの、過疎化や観光客減少といった問題により、人の目に触れられることなく廃れていく地域は多く存在する。そうした地域の魅力を多くの人に届けるために、地域の魅力を体験できる観光シミュレーションゲームを制作した。秋田県鹿角市をテーマに、鹿角の持つ文化財や自然をゲーム空間上に再現し、キャラクターを操作しステージを探索することで、ゲーム空間での観光体験を楽しむことができる。

はじめに

地方から主要都市への人口流出が加速する現代、後継者不足などによって地方の伝統文化や建築文化などの存続が困難になり、人の目に触れることなく廃れていく問題を抱えている。

こうした問題を解決するために、WEBや動画等で地域の魅力を発信する手法があるが、新規性がなくコンテンツが飽和状態にある点や、猛威を奮っているコロナウイルスの影響によって観光自体が困難となっている状況から新しい魅力発信の方法やこのような状況下でも地域に興味を持ってもらうための取り組みが必要とされている。

本研究では上述した問題を抱える秋田県鹿角市をテーマに、市内に存在する「旧関善酒店」と「湯瀬渓谷」の魅力を発信するゲームを制作し、ゲームコンテンツを用いた地域の情報発信や文化の維持を行う手法を提案する。

調査

前例の調査を行い、その調査をもとに地域の魅力発信における既存の媒体(WEBメディアや映像コンテンツ)とゲームコンテンツの優れている部分を比較。その後考察を行った。

調査の結果、地域の魅力をゲームコンテンツにして発信している事例はまだ少なく、画像以外では静岡や群馬など数件の事例のみであった。

ゲームやアニメコンテンツの舞台として登場する地域や、ボードゲーム等のアナログゲームで地域を扱った作品は多く存在するが、地域そのもののPRを行っているゲームコンテンツの存在は極めて希少なものであると確認できた。

ゲームジャンルとしては、RPGやカードゲームものが大半であることが分かった。特徴的な点として、以下の点が挙げられた。

・現実に存在する店舗や人がゲーム内に登場し、実際にお店で使用できるクーポンなどが手に入る

・ゲーム攻略のヒントが市内の施設に隠されており、実際に訪れることでゲーム内で有利に立ち回れる

 

これらの調査をもとに既存の媒体との比較を行った。

 

 

 

 

 

 

ゲームを用いて地域の魅力発信を行う強みとして、ゲーム上での体験を現実へ結びつけやすく、幅広い魅力の伝え方ができるという点が挙げられた。ゲーム内で獲得したアイテムが現実で使用できたり、ゲーム上で観光をすることができたりすると現地に訪れてみようという人を増やすことができるのではないかと考えた。これらの調査をもとに今回制作するゲームの方針を決定した。

研究方法

秋田県鹿角市に現存する有形文化財「旧関善酒店」と有名な観光スポット「湯瀬渓谷」をゲーム空間上に表現。プレイヤーはゲーム内での観光を体験することができるようになっている。

ステージ内にあるオブジェクトに話しかけることでその観光スポットの情報を得ることができ、全ての情報を入手することで次のステージへの扉が解除され進むことができるというゲーム形式。

事前の調査やコロナウイルスによって現地に訪れることが難しい状況から、「ゲーム空間で観光が楽しめる」をコンセプトに制作した。実際に現地の施設との連携や今後の展開がしやすく、文化財をゲーム空間に残すことができるコンテンツの制作を目指した。

まとめ

テストプレイから、観光先の下見としての役割を担うことができそうという感想や、自粛が続く中、家で地方の文化財や観光地を歩いたり話しかけたりして体験できるコンテンツは興味が湧くといった意見をいただくことができたが、多くの課題が残る結果となった。

特にゲーム的な面白さや、繰り返し遊んでもらうためのシステム作りの面を地域PRと両立させることが難しく、今回の制作ではゲーム的な面白さの部分が不足していた。

また、研究を総括して以下のような考察結果が得られた。

 

ゲームコンテンツには他の媒体にはない、歩いたりアイテムを集めたりする「体験」を提供することによってより地域の魅力を伝えることができ、実際の施設と連携することができる点が一番の強みであると感じた。

一方、表にも記載しているように、制作コスト面の課題が多かった。実際に制作してみて学習時間や技術習得時間にかなりの時間を必要とし、実装予定だった機能や表現が実装できなかったり、一部制作モデルをゲーム上で動かすことが困難な状況になってしまった。

 

しかし、コスト面の問題は豊富なゲームアセットの活用や、ゲームシステムの流用、地形等のオープンソースデータの活用によって削減していくことが可能である。

自粛が今後も続くと予想される中、ゲーム空間で観光ができる点や実際に店舗と連携できる点に加え、アップデートで継続して地域をPRできる一過性のない媒体であるため、地域の魅力を伝えるゲームコンテンツは今後地域の発展に大きく貢献できるコンテンツであると考える。

参考文献

参考文献

[1]畠山瑛護,吉城拓馬「気仙沼クエスト 」

https://plicy.net/GamespPlay/68801  

 

[2](株)エイコードバンク「津軽為信統一記 公式HP」

https://acodebank.jp/tamenobu/

 

[3]有限会社井桁屋「ローカルディア・クロニクル」

https://www.saitama-rpg.info

研究を終えて

地域の魅力をゲームにしてPRすることで、より多くの人の目に地域の情報が入るのではないかと考えたところから研究が始まりました。ウイルスによって実際に観光に行く機会も少なくなってしまったため、ゲーム空間で観光ができるコンテンツがあれば地域の魅力発信にも繋がり、家にいながら観光が楽しめると考え、今回ゲームを制作しました。また、観光客減や高齢化によって失われてしまうかもしれない文化財をゲーム空間に残そうという試みもあって今回は地元である秋田県鹿角市にある文化財をモチーフに制作を行っています。

技術的な面で制作がうまくいかず、自分の作風が出せずに内容が不足してしまい、結果としては満足の行くものを作ることができませんでしたが、地域をPRするゲームコンテンツには何が必要か、これからどう改善していけば良いかを発見することができたと感じています。

展示の際、地方創生事業関係のお仕事をなさっている方から

「地域のPRだけでなく、様々な問題から存続の危機に瀕している文化財をゲームとして残すという点はとても魅力的に感じる」

とコメントをいただけたことが印象に残っています。PRするだけでなく、文化の保存としての役割をゲームが担えるのだと感じました。

制作を通して見つかった「ゲーム的な面白さと地域PRの両立」と技術習得を意識し、今後もゲームの改善を行うとともに、実際の店舗と連携ができるコンテンツの開発を続け、地域の魅力発信に貢献していきます。

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