駅前広場は、自動車から鉄道、鉄道からバスといった異なる交通機関の接続を行う交通結節点の役割を果たしている。しかし、送迎を目的として行うキスアンドライド車両の停車位置が明確に定められていない駅前広場もあるため、バス乗降所などに停車し、中には5分以上もの長い時間停車をしている車両も見られる。結果的に、駅前広場において、公共交通の運行の妨げや、駅前広場の交通の安全性の欠如が生じている。このような問題に対して本研究では、停車が行われる停車位置にはどのような特徴があるのかを調査を通じて把握し、その要因について明らかにすることを目的とする。
調査
2. 調査概要
2.1 調査対象
調査対象地は多賀城駅南口駅前広場とする。この広場では、27台収容できるJR利用者のための30分無料の駐車場が併設されており、キスアンドライド車両が多くみられることから、調査対象とした。
2.2 調査方法
これまでの分析1)では、キスアンドライド車両が図1の、A~Eの駐車場側への停車をする要因については明らかにしていない。そこで、ロジスティック回帰分析によって、駐車場側への停車を発生させる要因について明らかにする。
2.3 調査日時
2020年6月4日(木・晴れ)、6月10日(水・晴れ)、6月16日(火・曇り)のそれぞれ17~20時に調査を行った。
A~Eの停車位置についてはデータ数が少なかったため、8月25日(火・曇り)、9月2日(水・晴れ)の2日間に追加の調査を行った。
図1 多賀城駅前広場における駐車番号注1)
3. 駐車場側への複数台停車の分析
駐車場側への停車には複数台の連続的な停車が行われているという仮説の下、これまでは複数台停まっている停車時間を分析したが、駐車場側の各停車位置にどういった停車の傾向があるのかを把握はできていなかった。図2は、駐車場側の各停車位置に1台目に停車をした回数のデータで、図3、図4は、同じく2台目、3台目に選択された回数のデータである。図2から、1台目に選択される回数が最も多かったのはBで、その次にDが多く、AとEの停車位置は1台目に選択されにくいという傾向が顕著に表れた。図3、図4から、A、C、Eの停車位置は1台目に比べて、2台目、3台目の方が選択されやすい傾向が多くなることが読み取れる。また、Bの停車位置は最も選択される回数が多く、選択しやすい停車位置である。Dの停車位置は、1台目に選択されやすい傾向はあるものの、2台目、3台目に選択されにくい傾向にあることも読み取れる。広場の進入口から比較的遠いDに1台目が停車をし、それに続くように進入口から近いAやBに停車を行っていると予想される。進入口に近いAやB、Cが複数台目に選択される傾向があることに加えて、進入口から遠いDが1台目に選択されやすいという結果から、前方に車両が停車をしている後に続いて2台目、3台目が停車を行っていることが予想される。
図2 駐車場側への停車で1台目に選択された回数
図3 駐車場側への停車で2台目に選択された回数
図4 駐車場側への停車で3台目に選択された回数
4. ロジスティック回帰分析
4-1. 目的変数
多賀城駅南口駅前広場において駐車場側のA~Eに車両を停車したか否かを目的変数としたロジスティック回帰分析を行い、各説明変数が駐車場側への停車に与えた影響を明らかにする。
4-2. 説明変数
説明変数の候補は、「停車時間」「キスアンドライド車両の運転手が乗ったままか否か」「キスアンドライド車両が列車待ちの可能性の有無」とする。
キスアンドライド車両の運転手が乗ったままの車両と降りた車両では、降りた車両の駐車時間の方が長くなることがこれまでの分析で明らかになっており、これらの車両は、送迎以外の目的での利用も考えられる。キスアンドライド車両が列車待ちの可能性があるか否かは、多賀城駅の鉄道到着時間に停車を行っていた場合は、列車待ちの可能性があるものとみなしている。
5. 分析結果
ロジスティック回帰分析には、多賀城駅南口駅前広場に進入した全車両581台、そして駐車場側に停車をした車両149台のデータを扱った。説明変数は「はい」を1、「いいえ」を2、目的変数は駐車場側への停車を1、それ以外の場所への停車を2として分析を行った。表1から、駐車場側に停車を行った車両は、列車到着待ちの傾向があることが読み取れる。表2の結果から、停車時間が短ければ駐車場側に停車するという傾向が見られる。また、広場内に進入してきた車両の運転手が降りた場合に、駐車場側への停車が増える傾向にある。運転手が降りる車両はほとんど駐車場への停車であることに加えて、運転手が乗ったままの車両よりも駐停車時間が長くなるため、駐車場から溢れた車両が駐車場側に停車をしていると予想される。加えて、列車待ちの可能性がない場合に、駐車場側への停車傾向があることが分かった。
表1 基本統計量
表2 ロジスティック回帰分析結果
偏回帰係数 | 標準偏回帰
係数 |
標準誤差 | p値 | 判定 | |
停車時間(分) | -47.974 | -0.098 | 26.150 | 0.067 | n.s. |
乗ったままか
否か |
-3.681 | -0.253 | 1.020 | 0.000 | ** |
列車待ちの可能があるか否か | -0.558 | -0.045 | 0.250 | 0.027 | * |
定数 | 3.818 | 1.110 | 0.000 | ** |
6. まとめ
駐車場側A~Eへの停車選択行動には5か所それぞれに特徴があることが分かった。ロジスティック回帰分析を行うことで、広場内に進入してきた車両の運転手が降りることや、それらの車両が列車待ちの可能性ではない場合など、送迎以外の目的での駅前広場の利用がされている際に、駐車場側への停車傾向があることが分かった。
研究方法
制作案
駅前広場2)は市区町村のシンボルや、人々の憩いの場となる環境空間の他に、円滑な交通を促す交通空間としての役割が期待されている2)。それら2つの役割をこなし、適切な利用を促すことのできるような広場について、論文で得た知見から制作を行うこととした。
対象として取り上げる多賀城駅南口の駅舎は、南大門をイメージさせるような外観をしており、多賀城市には古くからの歴史が残っている。しかし、多賀城駅南口駅前広場は、南大門をイメージさせる外観はありながらも、一目見ただけでは多賀城市がどのような町か分かるような地域性は低い現状にある。そのため、多賀城駅のバス停にかかるキャノピーの制作を行った。多賀城市の名産品である古代米をモチーフとし、駅舎から駐車場までを南大門をイメージさせるデザインとした。
本研究結果では、キスアンドライド車両を規制するための駐車場でも、バス乗降所でもない、その間の駐車場側への停車が問題として挙げられた。駐車場側への停車を抑制するためには、図1の停車場所C、Dに停車をさせないことが駐車場側への停車の抑制策として効果的である。したがって駐車場側B~Eの停車場所の歩道側に壁を設け、そこにキャノピーを設けることで、駐車場の待ちスペースとして活用することとした。多賀城駅が町を象徴するようなシンボルとなることを目指すのに加えて、研究で明らかなった交通問題の解決も同時に行った。
(実際の多賀城駅の模型)
まとめ
駅前広場におけるキスアンドライド車両を規制するための駐車場を設けていても、自由な停車が行われていることが明らかになった。多賀城駅のような都市圏の隣に位置しているベッドタウンのような都市はキスアンドライド車両が多い。そういった駅において本研究が、円滑な交通を促す助けになれば幸いです。
参考文献
1) 佐藤柊介:無料駐車場併設型の駅前広場における駐停車車両の動向, 宮城大学令和2年度卒業研究I成果発表
予稿集, pp. 10-11, 2020
2) 日本交通協会編:駅前広場計画指針, 技報堂出版, 1998