ne-connect:人と留守番中の猫をマッチングして両者が遠隔で遊べるおもちゃ
太田瑞紀
鈴木研究室
2020 年度卒業
ペットに留守番を強いることに不安な飼い主は多く,様々な対策が取られているが,遊びへの対策は不十分である.外出中にペットを預けることもできるがペットはストレスを感じる.本研究では,これらの課題を解決するため,人とペットをマッチングし,両者が遠隔で遊ぶことのできるおもちゃである「ne-connect」を開発した.

はじめに

ペットは飼い主の不在時に留守番を強いられ,多くの飼い主ペットだけを家に残すことに不安を覚えている.また,飼い主が外出する際に行われているペットの留守番対策については最低限の生活の配慮にとどまっている.近年,動物本来の快適性を考慮して生活の質を高めようとするアニマルウェルフェアの考え方が広まっている.アニマルウェルフェアでは,飢えや渇きからの自由,不快からの自由,痛み・傷害・病気からの自由,恐怖や抑圧からの自由,正常な行動を表現する自由から成る「5 つの自由」が定められている.犬や猫等の遊びは獲物捕獲行動を模しており,狩猟本能を満たす側面がある.飼い主の不在時に遊びが十分でない場合狩猟本能が満たされず,「5 つの自由」の内の1 つである動物本来の行動をとれるようにするための「正常な行動を表現する自由」が損なわれる可能性がある.このことから「5 つの自由」を遵守するには,飼い主が不在でもペットが十分に遊ぶことのできる環境が必要である.現在行われている留守番対策は生活への配慮のみであり,ペットの遊びへの対策が取られていない.また,既存の留守番製品も同様に遊びへの配慮は少ない.ペットを人に預ける場合,ペットはストレスを感じてしまう.そこで,本研究では人とペット双方のストレスを無くすため,人とペットを遠隔で繋ぐおもちゃの開発を目的とする.

調査

上記の課題を解決するため,本研究では,人とペットを遠隔で繋ぐおもちゃを開発する.これにより,人とペットは対面することなく遊ぶことができ,ペットや飼い主にストレスを感じさせることなく,ペットがいつでも快適に遊ぶことのできる環境を整えることができる.

人とペットを繋ぐおもちゃの開発

一般社団法人ペットフーズ協会の全国犬猫飼育実態調査によると,ペットを飼育している人は29.2% である.一方で内閣府の動物愛護に関する世論調査によると,ペットを飼うことが好きな人は72.5% にまで上る.また,dPOINT CLUB の2018 ペット事情によると,希望するペットとの過ごし方について家で一緒に遊ぶと答えた男性が69.8%,女性は79.2% と非常に高くなっている.これらのアンケート対象はペットの飼育の有無に関わらないため,ペットを飼っていないためにペットと遊ぶことができないという人が多数存在することが明らかである.このニーズを利用し,本研究では,動物と遊びたいと考えている人と留守番中のペットが遊べるシステムを開発する.また,飼い主がペットと遊ぶのではなく,動物と遊びたい人がペットと遊ぶようにするために,本研究では動物と人をマッチングするシステムを構築する.

デザイン指針

遠隔で遊ぶおもちゃを開発するため,ユーザはシステムを利用する場所に囚われず操作できる必要がある.また,人とペットは対面して遊ぶことができないため,ユーザは猫がおもちゃに夢中で遊んでいるのか伝わりにくい.猫がおもちゃで遊んでいることを確認するためにカメラを取り付けると,ペットを飼っている家の様子が見えてしまい,プライバシーの確保が難しくなる.上記の問題を解決するため,本研究では以下のデザイン指針を設ける.
• 遠隔で遊ぶことができる
• 動物と遊んでいることをリアルに感じることができる
• プライバシを確保できる

研究方法

ne-connect の概要

ne-connect は,飼い主が遊ぶことのできない状況の猫と動物と遊びたいと考えている人をマッチングし,遠隔で遊ぶことができるおもちゃである.猫用おもちゃとしっぽデバイスから構成される.マッチング画面には待機中の猫が一覧として表示され,動物と遊びたい人が好みの猫を探すことでマッチングする.猫用おもちゃはもぐらたたきを模したおもちゃで,人側のスマートフォンから遠隔操作されたモグラが上下に動き,猫の遊びを誘う.おもちゃ自体は移動しないもぐらたたき型おもちゃにすることでカメラを固定することができ,飼い主は自ら映り込みを調整することでプライバシを確保することができる.しっぽデバイスは動物と遊びたい人がスマートフォンに装着して使用し,猫の遊びに連動してデバイスに装着された尻尾が揺れ,猫とその場で遊んでいる感覚を疑似的に得ることができる.ne-connect の操作手順は以下のとおりである.まず飼い主は外出する際に,留守番することになる猫をne-connectに登録する.動物と遊びたい人はマッチング画面から好みの猫を検索し,マッチングを開始する.マッチングが完了した後,人側はペットの映像を見ながら,おもちゃのモグラを上下に操作する.猫は上下するモグラに反応して遊びはじめ,猫の遊びに連動して,人側のスマートフォンに接続されているしっぽデバイスが揺れる.

 猫用デバイスの実装

おもちゃには,マッチングするためのボタン,カメラ,上下するモグラがとりつけた.マッチング用のボタンを押すことでサーバにある猫の情報が更新され,猫のマッチング登録を行うことができる.操作画面に表示される猫の映像は,ネットワークWi-Fi カメラのTapo c100 からストリーミングを行った.モグラの上下の動きはステッピングモータを使用し,モグラの中には加速度センサを埋め込んだ.猫がモグラに触れたことで加速度センサの値が一定以上変化した場合,猫がおもちゃで遊んでいると判断し,しっぽデバイスの尻尾が連動して動く仕組みである

人用デバイスの実装

マッチング画面には猫の情報と「あそぶ」ボタンが表示され,「あそぶ」ボタンから操作画面に遷移する.もし待機中の猫がいない場合は「待機猫なし」と表示される.しっぽデバイスの尻尾は,アクリル板の関節にテグスを通し,間にバネを接着し作成した(図3).サーボホーンの両極端にテグスを接着し,サーボモータを回転させることで尻尾が引っ張られる仕組みである.また,尻尾を四方に動かすため,左右に動かすモータと上下に動かすモータの2種類を向きを変えて配置した.

通信実装

おもちゃ及びしっぽデバイスと,人側のスマートフォンの接続には,Blynkを使用した.Blynk とは,スマートフォンから簡単にIoT デバイスをコントロールできるIoT プラットフォームである.おもちゃとしっぽデバイスにはそれぞれWi-Fi モジュールを設置し,Wi-Fi を利用してインターネット経由でBlynk と接続した.また,おもちゃとサーバの接続にはWi-Fi モジュールのみを使用した.

まとめ

本研究では,他者とペットをマッチングするおもちゃの開発を行った.遠隔おもちゃにすることでストレスを感じることなく誰でもペットと遊ぶことを可能にした.また,遊びに興じる猫の尻尾を再現したしっぽデバイスを開発することで,近くで猫を感じることが可能となった.本研究では猫に着目したが,犬等の様々なペットとマッチングして遊ぶことが可能である.また,おもちゃの種類を増やすことで,ペットの性格や好みに合わせて遊ぶことができる.動物の種類やおもちゃの種類を増やすことで,より多くのペットと人が遊べるようにしていきたい.

参考文献

田中智夫. わが国におけるanimal welfare(アニマルウェルフェア)への対応. 日本畜産学会報, Vol. 82, No. 3, pp.333–336, 2011.
James E. Young, Neko Young, Saul Greenberg, and EhudSharlin. Feline Fun Park: A Distributed Tangible Interfacefor Pets and Owners. 2007.
一般社団法人ペットフーズ協会. 全国犬猫飼育実態調査.https://petfood.or.jp/data/.
内閣府. 動物愛護に関する世論調査.https://survey.gov-online.go.jp/h22/h22-doubutu/index.html.
d POINT CLUB. 2018 ペット事情. https://dpoint.jp/ctrw/enq

研究を終えて

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